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就活
コラム
「ニーズ」に応えていく有機合成研究
マナック株式会社[修士卒/研究職]
業種[高分子/医薬品/ファインケミカル/電子材料/その他機能性化学品(有機・無機)]
「先輩インタビュー」第十回では、難燃剤・ヘルスサポート・ファインケミカルの事業展開をされているマナック株式会社を訪問してきました。海水化学をルーツとするマナック。その研究所のスペシャリティケミカルチームでご活躍されているKさんにお話を伺ってきました。





学生時代と今の違い
こんにちは。さっそくですが、現在所属されている部署の事についてお聞かせいただけますか? 

K  現在は研究所にて、機能性分子の中間体などの工業化に向けた受託の処方検討が主な業務になっています。その中で、実験室スケールでの反応の最適化や精製条件の最適化と、それを元に工業化に向けた処方を確立していく仕事に携わっています。

Kさんは、学生時代にはどのような研究をされていたのですか? 

K 有機金属錯体を構成して、それの物性評価をしていました。金属に付けるための有機分子を合成して、それを実際に金属イオン等と結合させて、最後に出来た分子を物性評価するという研究なのですが、分かりやすく言うと、色素の化合物をつくって、どんな機能をもつのか評価をするというということをしてきました。それと、金属錯体なので、触媒反応に応用するという研究になります。

そうしますと、今のお仕事に繋がる部分も多い感じでしょうか? 

K 有機合成という部分では確かに通じる部分はあると思いますが、色素の知識という部分では直接の繋がりは無いと思います。

そうした中で、今感じられている仕事の難しい部分ややりがいというのは、どういったところにありますか?

K 学生時代の研究ではお客様というものはありませんでしたので、「納期」と「コスト」というものを意識する事はありませんでした。なので、今の業務でのやりがいとしては、それらに合った処方を自分で組んで作れた時に感じます。

学生の頃は、納期やコストというものはあまり意識されていなかったのですね? 

K 学生の頃は、ここ迄にこれをしなければいけないという漠然とした期限はあったと思いますが、企業の場合には具体的にこの日迄に絶対にこれを作らなければいけないという期日が明確にあります。またコストについては、例えば反応に使う試薬についてですと、学生の時はコストの高い物を使ったとしても「作れれば良い」という意識が先行している感じがあったと思います。しかし企業ですと、作れたとしてもコストが高いとお客様のニーズに合っていないものになってしまうので、製品として評価できないものになってしまいます。

そうした違いがある中で、研究や評価をしていく上での意識の変化などは出てきますか?  

K 目標意識として、学生時代は新規性があってよいものが出来ればそれでよかったと思いますが、今だと、お客様のニーズがあっての品質やコスト要件をクリアしていかなければいけないというのが第一目標になってきますので、「ニーズ」というものが重要だという意識に変化したかなと思います。




入社して見えてきた他部署との繋がり
入社して見えてきた他部署との繋がり
学生時代の就職活動時のお話をお伺いしたいのですが、企業探しをされる際に軸にされていたポイントなどはありましたか?  

K 就職活動全般としてまず「化学系企業に行きたい」というものが大枠としてありました。ただ、私が当時取り組んでいた研究を取り扱われている企業があまり無かったので、有機合成の研究が好きだったこともあり、「反応」や「反応開発」に携われる企業を見ていくようにしていました。そうした中で、ハロゲン化に強みがあり、幅広い分野に携われる企業である当社を選びました。

就職活動時には、OBの話などはよく聞かれましたか? 

K そうですね。私の大学では学内セミナーなどが多くありましたので、その機会に企業に勤められている先輩の話をよく聞きましたね。また、研究室の先輩からも企業の研究の話は聞いていました。

そうした就職活動をされていた中で思い描いていた企業の研究現場のイメージと、今実際に働いてきて見えてきた現場のイメージとに違いなどはありましたか?  

K どちらかというと合成をメインでやりたいという部分では合致していたかと思いますが、合成以外の実機で作っていく業務で色々な部署の方が携わるんだという部分が、思い描いていたイメージとちょっと違かったかなと思います。


他分野の方との業務上のコミュニケーションというものにも、難しい部分などもあるかと思いますが、その辺りについて何か感じられたものなどはありますか? 

K 他分野といっても、会社の中では有機合成など業務としては共通している部分はあるので、用語的な理解の共有には支障は感じません。ただ、一つのテーマにおいても部署ごとに重要視する部分が違うのだなという事は感じます。

同じテーマに対しても、部署によって視点は異なってきますよね。  

K はい。一つのものを作り上げるまでには、工場や分析や法律関係など色々な部署と連携を取ります。各々の部署の方は元々有機合成をやっていた方なので共通言語は持っていますが、部署ごとに目的が違うので、たまにぶつかることがあります。そうしたところには難しさを感じますね。

それぞれの部署が果たすべき役割を真剣に突き詰めるからこそ、ぶつかってしまう場面というのは生じてしまうでしょうし、それだからこそ安全に高品質なものが作れるとも言えますね。  

K そうですね。やはり工場で製造する段階などになりますとスケールが大きいので、安全に対する考え方というものは学生時代とは段違いに厳しいと思います。学生時代ですと何かあってもガラスが割れる程度で済みますが、工場でのスケールになると大惨事になってしまいます。

学生時代は、安全に対する意識はあまりなかった感じなのですね。  

K 安全にしようとは思っているのですが、今と比べると意識の仕方が違かったと思います。先ほども申しました通り、学生時代は新しいものを作るということが第一で、危険なものを扱っているという意識が今ほど無かったかなと思います。





今の業務に活きる意識とは
これまでそうした形で業務に携わってこられて、「今の業務に活きてるな」と感じる学生時代の経験などはありますか?  

K 活きてる事としては、やはり有機合成自体は共通しているので、得られた結果に対する考察であったり、どういう考察をしなければいけないかという考え方の部分では、学生時代の研究経験が活きているなと思います。あと欲しい結果に対してどういう分析をしたらよいか、どういう条件の反応をしなければいけないかという考え方を学生時代にもしていて、それも今の業務で活きていると思います。

研究業務の土台となる考え方の部分で活きている要素があったという点では、入社後もスムーズに今の業務に携わっていけたという感じですね。 

K そうですね。比較的苦労したという感じはありませんでしたね。

逆に振り返ってみて、これをもっとやっておけばよかったな、と思う事などはありますか? 

K 一つは、これからグローバル化の時代ですので、英語などの外国語をもっと学んでおけばよかったかなと思いますね。

外国語ですか。 

K あとは、有機合成一つとっても、ちょっと違う分野になると分からなくなったりしますので、有機合成でも違う分野の基礎的な知識はもっと学んでおけたらよかったかなと思います。

違う分野の基礎的な知識ですか  

K そもそも「そういう分野があるんだ」という事も含めて、入社するまで知らなかった分野もありました。学生時代はどうしても一つの事しか研究をやらないので、他の分野ではこういう事が重視される等、基礎的な部分での広い知識というものを学べたらよかったなと思います。

自分の取り組んでいる研究テーマ以外にも、広く関心を持つことも必要なんですね。  

K 今考えるとそう思いますが、学生時代は研究結果に対する考察や考え方を身に着ける事が、その後の本当の基礎になってくると思うので、まずは自分の研究について考察できるようにしておくことが一番重要で、そこから派生して他の分野の事を少しずつ知っていけたらよいのではないかと思います。

業務の中では幅広い知識が求められると思いますが、テーマに取り組んでいる中で詰まってしまう事もあると思うのですが、そういう場合に周りからアドバイスを得たり、ということはありますか?  

K そうですね。困ったことへの相談などは日常的に研究室の中で行われていますし、定期的にチーム内や研究所の中で業務の報告をする機会が設けられているので、その場で相談をして意見やアドバイスを頂くという事は多いです。

では、情報交換などもしやすい感じですね。  

K しやすいですね。ただ、情報共有の場があっても、自分から取りに行こうとしないと必要な情報は得られないものですから、自分からコミュニケーションをとっていく姿勢というのも大切だと思います。

なるほど、待ちの姿勢ではだめだという事ですね。  

K そうですね。報告会の場というのは、「新たな情報を得る場」としても重要ではあると思うのですが、研究者は自分の殻に閉じこもりがちなところもあると思うので、「自分が情報を出す場」という意識で向き合うことが大切だと思います。そしてお互いが何をしているのか相互理解を深めて、その上で、反応や分析の待ち時間などに実験室にいるメンバーと情報や悩みを共有していくという形が、問題解決に良い情報交換の形だなと思います。





「ミス」ではなく「データ」
「ミス」ではなく「データ」
そうしますと、観点を替えて先輩として見ますと、どのような学生の方だと現場で活きるなと思いますか?  

K そうですね。今の話の延長になりますが、色々な人とコミュニケーションをとれることが重要かなと思いますね。合成の知識などはある程度皆さん持たれていて、業務の中で経験して学んでいくことが多いと思うので、そういう要素よりも色々な人とコミュニケーションをとれて、自分からも意見を言えたり情報発信が出来る人というのが重要かなと思いますね。

先ほどもありましたが、待ちではなく、自分から周囲に意見や報告をしていく姿勢が大切なんですね。 

K またトラブルが起きた時の対処にもそうしたことは言えて、最近の子は報告以前にミスをしないようにしようとする人が多い印象かなと思うのですが、怪我をしなかったりお客様に迷惑をかけないミスならある程度して、早目早目の報告と相談をして対処をするという経験をしていくのがいいんじゃないかと思うんですね。

それが成長につながっていくとも思いますよね。 

K 特に実験は何がミスかわかりませんし、実験はほぼミスのようなものだと思うんですね。上手くいかないものなので。謂わば、ピラミッドで例えるなら土台となるミスの数が多いほど高く登れるものだと思います。

逆に言うと、それだけトライ&エラーを積み重ねる忍耐力がいるとも言えますね。  

K そもそも私は実験が好きなので、上手くいかないことに対して、それがミスだとは思っていなくて、「データが一つ増えた」という認識なんですよね。

それは大変ポジティブな捉え方ですね。  

K でも、そういう人が研究には向いているのではないかなとも思いますね。

なるほど。  

K むしろ「こうしたら失敗するんだ」というデータが重要なんですよね。特に工場で製造する際には「そうしない様に」手順を組んでいくのでそちらのデータが大切です。なので、失敗をネガティブに捕らえない事が研究職としては大切な要素かなと思います。

そうしますと、仮定の話になりますが、もしKさんが採用選考の場に立ち会われるとしたら、学生のどういったところを見ると思いますか?  

K 一番はやはりコミュニケーションをとれるか、というところだと思います。あとは、実験にポジティブに取り組めているか、化学が好きか、というところを見ると思います。

ありがとうございます。最後になりますが、就職活動をされる学生の方へアドバイスなど有りましたら、お聞かせください。  

K 研究室に入って自分の研究をされている方は、先ほどの失敗の話ではないですが、自分の研究で色々なことを試してその結果どうなったかという経験は、その後どの企業に入社しても活きてくるので、熱意を持って取り組んでほしいと思います。その中で、外部に触れる機会もあると思うので、色々な話に関心をもって耳を傾けてほしいと思います。

なるほど。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


K ありがとうございました。




【文責:(株)スプラウト 分須弘二】