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就活
コラム
新しい農薬原体の創製を目指して
株式会社エス・ディー・エス バイオテック[修士卒/研究職]
業種[農薬/ファインケミカル]
「先輩インタビュー」第十一回では、殺菌・除草・殺虫の全ての作物保護分野で研究開発から製造・販売まで手がける農薬原体メーカーの株式会社エス・ディー・エス バイオテックを訪問してきました。
入社6年目で農薬原体の合成研究をされているIさんにお話を伺ってきました。




アプローチの違い・・・
アプローチの違い・・・
こんにちは。さっそくですが、Iさんは現在ご入社されて何年目になられますか?

I 6年目になります。

Iさんが所属されている部署でのお仕事について、お聞かせ下さい。 

I 現在私は、つくば研究所の合成チームに所属しておりまして、業務としては新規農薬原体の創製を目指した研究をしています。

原体、ですか? 

I 原体といいますのは、農薬の有効成分に当たる部分でして、農薬として効果を出すのに一番必要な化合物を指します。そうした化合物をデザインしたり実際に合成したりすることを、現在業務として取り組んでいます。

なるほど。有効成分となる新しい化合物を探し、合成していくお仕事をされているのですね。
ちなみにIさんは在学中、どのような研究をされていたのですか? 


I 大学時代は、一つの反応について徹底的に突き詰めていく「反応開発」に当たる研究をしておりました。

そうしますと、今の業務と共通する部分も多い感じですか? 

I 基本的に反応を扱うという点では同じですが、在学中はひたすら一つの反応を突き詰めていくものであったのに対し、今の業務では色々な反応を用いることで目的の化合物を創り出していくという形ですので、複数の反応を扱うという点で違う部分があると思います。

そうしますと、実際の実験への取り組み方に関しても違いなどは出てきますか? 

I そうですね。反応開発においては目的というのがはっきりしていまして、例えば「生成物の収率を上げる」ですとか、生成物が複数できてしまう場合には「そのどれかを優先的に作る」といった点で目的が明確なので、それに対してのアプローチを色々と検討出来ます。

なるほど。 

I 一方で、今私が携わっている農薬原体の研究に関しては「そのもの自体に農薬としての活性があるのか?それは殺菌活性なのか、殺虫活性なのか、除草活性なのか?」ということ自体がはっきりしていませんので、「どういった方針で最適化していけばよいか?」ということも不明確な中で探索をしていく必要があります。ですので、特定の目的に対して集中的に取り組むのが反応開発であれば、今の仕事は「様々な仮説を立てて一つ一つ検証をしていき、化合物自体の特性を明らかにしていく事」が主となりますので、目的を明確化させること自体も取り組むべき事柄に含まれる点が違いとしてあるかと思います。

なるほど。アプローチが全く異なるのですね。 

I そうですね。




農薬業界を目指した理由・・・
そうした業務に取り組まれている中で、やりがいに感じているポイントは何でしょうか? 

I アプローチが多様である以上は、自身の考え以上に様々な方法が存在していますので、どういった方法を採用すべきかで迷ったりすることもあります。そもそもそのアプローチの仕方自体を知らないこともあり、より勉強をしていかなければならない点で苦労する部分があります。

なるほど、そういうところは大変難しい部分ですね。 

I ですが、そうした今まで知らなかった知識を応用することによって、新しいものを創り出すための一歩につなげることが出来るという点は、一つのやりがいだと思っています。

暗中模索で進めていくというところが、面白さであり難しさにもなるというところなのですね。 

I そうだと感じています。

ちなみにIさんが就職活動をされている時、どういったことを軸に企業探しをされたのでしょうか? 

I 就職活動で私が一番大事にしたことは「合成の経験を活かせる仕事に就きたい」という点です。

合成の経験を活かせる企業を軸にされたのですね。 

I 反応開発の研究をしていた中では、成果物に対してまだ特定の価値が付与されていない場合も多かったのですが、実際に仕事に就く際には、そういった成果物に対して何かしらの価値を見出すところまでを仕事にしたいと考えていました。そういった点を踏まえたうえで、合成経験を活かした仕事をしたいというのが一番のポイントでした。

なるほど。 

I そういった中で企業を探していきますと、総合化学メーカーですとか創薬関係ですとか材料関係ですとか様々な分野があるのですが、その中で創薬を目指したいと考えました。

創薬にも分野があると思いますが、その中で農薬を目指された理由は何でしょうか? 

I 農薬については、日本ではどうしてもマイナスなイメージがあると思うのですが、それは私も最初の時点では同じでした。しかし企業研究を進める中で、農薬の必要性を知り、特に今後食糧需要が増えていく中で農薬が果たす役割の大きさを考えることで、農薬業界を志望することを決めました。

なるほど、確かに社会の中で果たす役割の大きさというものは、大きな魅力ですね。 





今に活きる「粘り強さ」・・・
今に活きる「粘り強さ」・・・
そうした形で今の業務に就かれてみて、実際の業務の在り方や意識と、就職活動当時想像していた現場のイメージとに何か違いなどはありましたか? 

I 入社する前ですと、企業である以上安全は第一という事で、各実験に対して必ず実験計画書を出して承認を得てから実験をする、という様なイメージを持っていました。そういった点で、やりたい実験を円滑に出来るのか、それによって業務のスピード感が損なわれてしまわないのかという部分に少し不安を抱いていました。しかし実際に入社してみますと、弊社に関しては、実験に対してかなり自由度が高い環境であることを感じました。

実際の現場はそこまで厳しくなかったという感じですか? 

I 決して安全性を蔑ろにしているということではなく、月に2回報告会という場を設けておりまして、その中で今度どういった実験をするかというところで安全性について厳しく議論しておりますし、それで足りない部分については、実際に実験を行う前に上司に対して実験計画を相談して、安全性に対する意識を再確認するようにしています。さらに言えば、新しい実験について誰も経験が無い反応を行う場合には、合成チーム以外の部署にまで安全に対する確認と承認を得た上で実験の実施を決定する、というステップも踏んでいます。

安全性の確認については、要所要所でしっかりと締めながら効率的に実験を進められているのですね。 

I そうですね。安全性は決して蔑ろにしないのですが、効率性も重視した実験形態をとっているという感じです。

そういう点では、大学の頃の取り組みはいかがでしたか? 

I そうですね。大学の頃も勿論、安全に対する方策や制度というものはあったのですが、やはり企業の方がより徹底しているように思います。例えば、危険な反応を避けるために多少高価であっても安全な試薬を使うですとか、合成ルート自体を変えることによってリスクを避けるといった方策を常に意識してとっておりますが、学生時代は必ずしもそうではありませんでした。

先ほどの話とは逆になりますが、今の仕事に活きてるなと感じる学生時代の経験などはありますか? 

I 大学で学んだ学術的な知識・経験は、今の仕事に間違いなく活きていると思います。それに加えて、私の場合は大学の研究室で自身のテーマについてかなり試行錯誤をしましたが、そうした試行錯誤の中で「粘り強くテーマに対して向き合った」経験は、今の仕事においてかなり活きてきていると思います。

粘り強く向き合ってきた経験ですか。 

I 今の業務は実施した事柄に対してすぐに結果や成果が出るという性質のものではありませんので、そうした中で自分がどこまで頑張れるかというのは大事だと思います。

なかなか結果が出ない時期に、それでもひたむきに取り組み続けるというのは大変なことですね。 

I テーマややり方にもよりますが、一つのテーマに対して目標を決めて取り組んでいく中で、1年以上携わることも少なくありません。目標には到達せず惜しいところまではいくのですが、あと一歩がどうしても届かないという状況に陥ることも時には出てきます。そういった時に、学生時代の粘り強く取り組んできた経験というのが、助けになると感じています。

そういう大変な状況の時、Iさんはどうやってモチベーションを維持されているのですか? 

I 合成の仕事から成果物に価値を見出したいという大元の意識に立ち返ることでモチベーションを維持しております。仕事をしていく中で自身がデザインしたものを合成し、それを評価できる環境に身を置けるという事に対して幸せを感じておりますので、そうした充実感やプラス意識をもつことによってモチベーションを維持できると思います。

最初の頃の意識というものは、どうしても忘れてしまいがちですが、そこを再確認してプラスの意識を呼び起こすというのは、大きな力になりますね。 




熱意、そしてとことん突き詰める事・・・
視点を変えた話になりますが、Iさんの目から見て「こういう学生の方なら自分の職場に合うんじゃないかな?」と思うポイントなどはありますか? 

I 私の働いている現場は「研究に対する熱意」というものをかなり重視していると思います。そういった点で、自身の研究テーマに対してどういった取り組みをしているか、どういった考えで研究しているかという点をはっきりと持っており、かつそれを伝えられることが大事かなと思います。

具体的にはどういった姿勢が求められると思いますか? 

I やはり自分で仮説や方針を考えて実践し、それが上手くいかなかったとしても、ネガティブなデータを元にどう考察し次の一手を検討するかというように、言われたことをやるだけではなく、能動的に決断・行動できる姿勢が求められると思います。

そうした観点から、学生の方たちに対して「こういうことをやっておくといいのではないか?」という事柄はありますか? 

I そうですね、まずは自身の研究テーマに対して、とことん考え抜いて実験をするという事が非常に大事かと思っています。そうした中で培った知識や経験というものは、必ず自分の力になりますし、就職活動の場においても面接官はそれを組み取ってくれると思います。ですので、まずは自身のテーマについてベストを尽くしてほしいと思います。

なるほど。中途半端にせず突き詰めることが大事になるんですね。
最後になりますが、Iさんは入社されて6年目という事で、いよいよ業務の全体像が見えてきてこれからの仕事への取り組みというものも変わってくる時期かと思いますが、Iさんのこれからの目標についてどのようなものを持っているのかお伺い出来ますか? 


I これからの目標は、今までと変わらず新しい農薬原体を創製することです。ただ、今までと違いまして、少しやり方を変えていく必要はあると感じています。

やり方を変えていく? 

I 今までですと、どうしても自身の業務に精一杯で周りが見えていない状態が多かったと思います。その場合、実施できることも限られていました。一方、現在は少しずつ視野が広がってきておりますので、今後は全体を俯瞰して捉えて、合成や生物の知識だけでなくより多面的な知識や方法論を取り入れていくことで目標に対する確度を今まで以上に高め、それによって新規農薬の創製を実現したいと思っています。

なるほど。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


T ありがとうございました。



【文責:(株)スプラウト 分須弘二】