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就活
コラム
化成品生産に貢献へ
クミアイ化学工業株式会社[修士修了/研究開発]
業種[農薬/ファインケミカル]
 農薬メーカー大手のクミアイ化学工業。国産第一号の農薬を市場に提供するなど創立当初から研究開発に力を注ぎ、今も研究開発型企業として新たな技術開発に挑戦し続けている。研究開発の主力ターゲットは農薬だが、化成品も成長の一翼を担っている。近年はイハラケミカル工業との経営統合により、化成品事業拡大の基盤も強化された。
 研究開発部門で、その化成品の研究に取り組んでいるSさん。入社してこの春で3年目を迎えるという若手。学生時代のフレッシュな感覚を持ちながらも、企業の現場での厳しさや喜びも味わっている。現在の仕事の中身、企業の研究者としての抱負などを語っていただいた。





目指すはプロセス最適化
目指すはプロセス最適化
今、職場で取り組んでいるお仕事のことを聞かせてください。

S この春で、入社して3年目を迎えます。当社は、農薬事業がメイン事業ですが、入社以来、化成品受託事業のプロセス開発に従事しています。主に、電子材料分野に用いられる化合物の工業的製法を開発しております。

化学反応の開発ともいえるようで、かなり基礎に近い部分と思いますが。

S 学生時代から、化学反応の研究に取り組んでいましたが、既存の反応やそれらを組み合わせてモノを創るというより、反応そのものに興味を持つようになりました。例えば、炭素-水素結合を切断して別の官能基を付けたり、危険な反応をより安全な反応に置き換えるなどです。化学反応の基礎の部分に目がいっていたのですが、“結局、何の役に立つの”と言われることもありましたね。しかし、授業が進むにつれて、ますます反応そのものに対する興味が湧いて、強く惹かれるようになりました。







安全が第一に
それらの経験が役に立っていますか。

S 学生時代の有機合成反応に関する知識などが現在、大いに役に立っています。ただ、学生の時の研究と今の研究では大いに違います。学生時代は、収率をいかに上げるかが中心で、安全やコストはその次にくる感じでした。
 企業では、まず安全、そしてコストです。例えば、収率が高くなっても、安全性を損なうことや、高価な原料を使っては意味がない。この3つのバランスをとって製品を開発しなければなりません。それだけ、実際の生産にこぎつけるまでのファクターが多くて、大変だと感じます。企業にいて思うことは、経験を積んでいる人はそれらの勘所を見つけて、判断が速いということです。
 また、ネガティブ・データのもつ重要性が、学生時代よりはるかに高いと実感しました。企業では、ラボ段階から、実証、商業化と段階を踏むわけですが、実機とラボとの違いを知る上で、ネガティブ・データがいかに大切かということです。
商業化への過程では、各段階での課題や問題点を洗い出すことが必要ですが、それには経験知が大きな役割を果たすことも知らされました。大変だと感じますが、失敗も次に生かしていく財産だとも思っています。




自然体でいられる会社
就職の時の決め手は。

S 就職活動をしていた時、自分がそれまでやっていた研究を活かしたいとかは、それほど深く考えていませんでした。それよりも、自分に合うか、合わないかということでした。自然体で仕事ができる会社・職場であればよいと思っていたのです。
 そんな時、たまたま学内で当社の就職説明会が催され、“ここならば”と感じ、ご縁があって、現在に至るわけです。

一日のスケジュールはどのようなものですか。

S 朝、職場でショートミーティングを行います。研究開発部門の中でも化成品研究室は、各自持っているテーマの数が多いので、それらの現状を報告するのが主になっています。その後、実験に入るのですが、並行してデスクワークをこなし、午後遅い時間に実験の後始末をして帰宅というのがルーチンです。

研究開発では、先端や新規の情報収集が必須といわれます。そのあたり、どのようにされていますか。

S 学会や展示会など、自分が必要だと申請すれば、会社もかなり認めてくれます。自ら発表する機会はそれほど多くはありませんが、化学反応そのものに関するものから、分析機器についてなど幅広い情報に接することができて、参考になっています。加えて、そこでは最先端の情報が多く発表されたりします。それが今の仕事に、すぐ役に立つとは思いませんが、ヒントになる場合もあると思います。研究者としてアンテナを張っておくことは大切だと考えるとともに、将来に備えて、引き出しの数を増やす意味もあります。





もの創りの醍醐味
仕事をしていて、やりがいとか達成感を感じますか。それはどんな時でしょうか。

S 私の考えた手法で、目的のモノが出来上がったときですね。実際に数百キログラムという単位でモノが出来上がってきたのをみると、かなりやりがいを感じます。
 また、私が全てを担当していたわけでなく、先輩方とチームとして取り組んで、最終部分を担当したテーマでは、最初はちょっとトラブルもあったのですが、最近は安定的にモノを生産できるようになったことがあります。それと、私が最初から関わっていたテーマのものですが、昨年、試作を行い、若干課題があったもののそれらを克服して製品を販売するまでになったこともあります。よかったなというのが正直な感想で、モノづくりの醍醐味も味わうことができました。

企業の研究開発に携わっていて、仕事の醍醐味を味わうこともできるなど、貴重な経験を得ることができました。これから、このような職業、働き方をするには、何を身につけておいたほうがよいのか。何か、アドバイスはありますか。

S 企業での研究開発に携わって思うことは、学生時代よりもはるかに多様な観点から研究しなければならないということです。研究を通じて知識をつけることは良いことなのですが、自分の研究一辺倒であることよりも、色んなところにアンテナを伸ばしておくと、意外に役立つことがあるということです。例えば、関連する色々な論文を読んでおくとかです。私の場合、反応に関する研究に力を注いでいたのですが、ここにきて分析の大切さを痛感しました。要は、多様なものに反応するアンテナというか受け口をもつように、絶えず心がけておくということではないでしょうか。





多様な価値観に触れよ
多様な価値観に触れよ
心構えとしていえば、幅広い視野を持つということでしょうか。

S 大学の時は、テーマも自分で決めるし、実験の時も大体は一人。個人で動くことが基本ですが、企業では、チームで動くことがほとんどで、大学ではほぼ得られない経験です。それを少しでも体験しておくといいと思います。
 例えば、部活動。それを通じて、色んな人や多様な価値観に触れあうことは、企業に入って役に立つと思います。私も大学時の部活動の経験が生きていると感じる時があります。自分と違った価値観を認めると、コミュニケーションがとり易いと思うことがあったりします。コミュニケーションが取れていれば、業務上、意見の相違が出たとしても、着地点を違和感なく見つけられたりもできるでしょう。

これからの仕事に対する思い、目標を聞かせてください。

S 入社して今年で3年目の未熟者です。自分の仕事一辺倒になりがちだと感じています。朝のショートミーティングでも、先輩や同僚の報告を聞いてはいるのですが、そのテーマをフォローできるかどうかを考える余裕もまだありません。これから年数を重ねていく中で、自分のテーマだけでなくて、他のテーマについてもフォローできる、度量のある研究者に成長していきたいです。
 例えば、実生産を目指してのスケールアップを検討する時。問題点や課題を克服するため、多様な意見が必要とされます。そのような時に、的確な意見や提案を述べられるようになりたいと思っています。



【文責:(株)スプラウト 伊藤克人】