top

就活
コラム
新しい化合物をつくる仕事
JNC株式会社[修士修了/研究開発]
業種[総合化学/石油化学/高分子/ファインケミカル/電子材料/エネルギー/環境/化学工学/バイオテクノロジー]
「先輩インタビュー」第九回では、「情報」「素材」「衛生」「発電」をキーワードに、ディスプレイ材料、合成樹脂や熱接着性複合繊維及び被覆尿素肥料など多岐にわたる事業展開をされているJNC株式会社を訪問してきました。
入社3年目。市原研究所の第一研究センターでご活躍されているTさんにお話を伺ってきました。



「人の生活を豊かにする」ことを目指して・・・
「人の生活を豊かにする」ことを目指して・・・
こんにちは。早速ですが、Tさんが所属されている部署でのお仕事について、お聞かせ下さい。

T 私は現在、ディスプレイ材料の研究開発をしている部署に所属しておりまして、こちらでは有機合成を利用して新しい化合物をつくるという仕事をしています。部署としては数十名おりまして、液晶ディスプレイを研究しているグループと有機EL素材を研究しているグループの2つに分かれています。

ディスプレイ材料の新しい化合物をつくる、というのは大変そうですね。 

T 「化合物をつくる」という事は、私たちの部署においては当たり前の事なのですが、合成した化合物が良い物性を有しているというところが一番重要であり、それが「出来て当たり前」というところがやはり難しい部分だとは思います。また、更に難しい部分が「品質」になると思います。

品質、ですか。 

T はい。狙って作った化合物自体が良い特性を持っているかを知りたいので、その純度に大変気を遣います。ただ、ノウハウもたくさん蓄積がありますので、それらを駆使して対応する事が出来ています。

ノウハウの蓄積があるというのは、大きな助けですね。 

T あと、液晶物質についても有機ELの材料についてもそうなのですが、電圧をかける物質なので、従来の有機合成の研究をしてきた人には分からない不純物が悪さをするケースというのが結構あります。

従来の有機合成の研究では分からない不純物、ですか? 

T はい。有機物を分析する条件だと見えない不純物が悪さをしたりするので、そのあたりは大変気を遣いますし、会社に入って初めて知った部分ですね。

なるほど、大学の有機合成の研究室では電気を使う事は、あまり無さそうですね。 

T そうだと思います。ディスプレイ材料に関しては電圧をかける材料ですので、電気的に活性のある不純物があると非常にまずいということで、その状況についてはシビアに見ています。

ちなみに、在学中Tさんはどのような研究をされていたのですか? 

T 主に有機合成の研究を行っていました。

Tさんは、就職活動をされていた時、どういった方向性で企業探しをされていたのですか? 

T 私の場合は、初めから化学メーカーを対象にまわろう考えていました。

化学メーカーを志望されたのは、どのような理由からですか? 

T 大学受験をする時に、あるテレビ番組で化学メーカーの特集がされていまして、その中で「海水を真水に変える」という逆浸透膜が取り上げられていたんですね。こういう素人目にはただの白い幕に見えるものが人の役に立つんだな、というところに不思議さと凄さを感じまして、そういう材料開発が出来る大学に行きたいと考えて大学を選んだことが今の自分の源流としてあります。そこから、就職活動では素材開発が出来る化学メーカーを志望しようと、最初から定まりました。

志望した化学メーカーとしては、どういった分野を目指されていましたか? 

T 研究室では、低分子の合成を3年間みっちり鍛えられましたので、その部分を活かしたいと思って低分子材料に強みのある化学メーカーを主に探していました。あとは若干製薬メーカーや農薬メーカーも見て回ったりもしましたが、製薬メーカーや農薬メーカーというのは、人の「生」に関して役立つ分野だと思いましたが、自分の場合は「人の生活を豊かにする」分野で役立ちたいと思ったので、やはり素材メーカーだなと思いました。

では、現在は正に希望通りの仕事に携わられているという事ですね。 

T そうですね。




自分の研究は自分のものにしよう
ところで、大学の研究室での研究の在り方と、企業の中での研究の在り方という面では、違いを感じるところはありましたか? 

T そうですね、大学時代は「目的の物質を作り上げればOKだ」と思っていましたので、謂わばチャンピオンのデータを繋げていって、ものが出来たらよいという感じでした。けれども企業に入ると、開発の段階ではそうでもないのですが、製造の段階になると定常的にその品質のものを作らないといけませんので、チャンピオンデータを並べることは出来ません。平均値で合成していかなければいけませんので、その平均値を上げるということを意識し始めたのが、学生時代と今との大きな違いだと思います。製造に関してもそうですし、精製の品質管理においてもそうですし、平均値をあげていくように意識が変わっていきましたね。

実験の結果に対する見方と意識が変わってきたという感じなんですね。
では、学生時代の経験等で今の仕事に「活きてるな」と感じるものはありますか? 


T 一つは、大学時代にいろいろな反応を試してみた経験が今に活きているなと思っています。

色々な反応ですか。 

T 大学時代の研究室は、自由にやらせてもらえる所だったので、「こういう反応をやってみたら上手くいくんじゃないか」というように様々な可能性を模索する習慣が身についたと思います。

ただ言われた通りにするのではなく、自分で可能性を模索する姿勢というのは、確かに大切ですね。 

T あともう一つは、自分の研究室だけでなく他の研究室の先生や学生と交流を持った経験は、今の自分の力になっているなと感じています。

ほかの研究室との交流ですか。 

T 自分とは違う研究について見聞きすることで、自分の研究の立ち位置を確認したり、他のバックグラウンドを持った人とディスカッションすることに慣れたというのは、大きな収穫だと思います。

今の職場でも、別分野の人とディスカッションが必要になる場面というのはあるものですか? 

T そうですね。ディスプレイ素材を作っていますので、それを評価する部署もありまして、そこには物理系など化学分野ではない人も大勢います。そういう人たちと話をする際に、学生時代の交流経験のおかげで、だいぶ抵抗感が低くなったように思います。

ちょっと目線を変えた質問になりますが、企業の研究現場を知る立場から学生を見た場合、評価としてどういったポイントを重視しますか? 

T そうですね、一番見るポイントは「自分の研究を自分のものにしているか?」というところだと思います。

自分のものにしている、とはどういったことでしょうか? 

T 学生時代、研究室に所属すると指導教員からテーマを与えられてそれに関して実験をし、進捗を指導教員と話しながら研究を進めると思うのですが、学生の中には『やらされている』人もいるんですよね。

なるほど。 

T 「先生がこう言ったから、こうしてみたんだ」という人もいますが、やはり自分のテーマですから、自分が主体になって考えて自分なりのアイデアを出しながら研究を進めるという事は大事だと思います。なので、自分が研究の主体になって進めることが出来る人なのかな、というポイントは重視したいと思います。

その見極めは、どういったところで見えるでしょうか? 

T そのテーマに関して、自分なりの考えであるとか、どういった方向へ進めたいと考えているか、それが先生の受け売りではなく自分の発想で導き出せているか、というポイントから見えてくるかと思います。



体系的な基礎学習の大切さ
体系的な基礎学習の大切さ
話は変わりますが、今振り返ってみて、在学中にこういうことをやっておくといいな、というものはありますか? 

T 研究に集中して取り組むことも大切と思いますが、他の分野にも目を向けてみるというのも同じように大切だと思います。私自身も在学中それが大事だと思っていたので、他の研究室の先生や学生と交流を持つようにしていました。なので今の学生の方も、隣の研究室などに関心をもって交流するといいと思います。

逆に、自分自身が「やっておけばよかったな」と思う事はありますか? 

T 図書館をもっと利用しておけばよかったなと思いますね。

図書館ですか? 

T 図書館ですと、非常に高価な本も借りて見られるので、もっと有効活用すればよかったなと思いますね。

文献調査が大事という感じでしょうか。 

T 文献調査というか、教科書的な知識というものはいくら勉強しても無駄にはならないと思います。そういう勉強をしやすいのが大学の図書館だなと、今になると思います。

今の業務でも、教科書的な知識の学習というのは大事ですか? 

T 大事だと思います。今も当時の教科書を見直したり、新しく教科書を買って勉強することは続けています。あと、学生時代は合成の教科書がメインだったのですが、今だと電気化学であるとか、ディスプレイ材料に役立つための物理化学であるとか、そういうところの専門書を買って勉強しています。こうした本は非常に高価なのですが、大学だと図書館で借りて学べるので、いいなと思うんですよね。

基礎的な部分の勉強は大事ですね。 

T 自然の摂理に反する製品はできませんから、そういう基礎的な部分を分かっていないと頓珍漢なことをやってしまいますから、基礎は本当に大事だと思います。また基礎的な部分の学び方についても、インターネットなどで調べると用語説明などは簡単に出てきますが、そういうものではなく、教科書の様に体系的に説明されたものでその分野を理解することが大切だと思います。

Tさんは入社3年目という事で、そろそろ仕事の全体像が見えてきた頃かと思うのですが、今後の目標などはどのようなものがありますか? 

T 直近のところでは、自分で設計した化合物を合成して、それが良い特性が出て採用されることが目標ですね。
もう少し長期的な目標としては、ものづくりに特化しただけではだめだと思うんですね。なので、自分で価値を創り出せるというか、「こういうものにはこういう使い方があるんだよ」という様に、価値を自分で付けて売り込むということが必要になると思うので、世の中のニーズを見ながら「こういうものにはどういう価値が付けられるのか?」という事を常々考えて、最終的にはそれを具体的に表現できる人間になることが目標ですね。

なるほど、新しい世界観を作っていくという事ですね。 

T 入社したばかりの内は、与えられた仕事をしていればいいかもしれませんが、将来は今ある事業が残っている保証はありませんから、次の事業の柱になるものを自分で創出するという気持ちは必要になってくると思います。

Tさんは、今の仕事について将来をどのようにイメージされていますか? 

T これからもっと情報化が進んでいって、表示媒体というものが重要になってくると思うんですね。そうした流れの中で「ディスプレイで四角い形をしていて、テレビの様に見える」という概念を壊さないとならないなと思います。その上で、弊社は有機ELの他に液晶材料もやっていますので、そういうところも応用して、ホログラムなどの新しい表示媒体の形について、未来を考えていくことが必要だなと考えています。

それでは最後になりますが、学生の方へ何かメッセージはありますか? 

T 先ほども触れましたが「自分の研究は自分のものにしましょう」という事だと思います。
原理であるとか、今抱えている課題については深く考えている人は多いと思うのですが、それが達成された後に何が待っているのか?というところで、あまり夢が描けていないなと感じます。

夢ですか 

T 絵に描いた餅でいいので、それを達成したらこういうことに役立つんだぞ、という様な夢をもって研究に取り組むということが自分の研究を自分のものにしていく上で大事ですし、楽しいことだと思うので、是非考えてみてほしいなと思います。

なるほど。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


T ありがとうございました。



【文責:(株)スプラウト 分須弘二】