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就活
コラム
「考えること」の大切さ
大阪有機化学工業株式会社[修士修了/研究開発]
業種[総合化学/石油化学/高分子/医薬品/化粧品/農薬/ファインケミカル/資源化学/電子材料/エネルギー/環境/化学工学/バイオテクノロジー/その他機能性化学品(有機・無機)]
「先輩インタビュー」第三回では、「特殊アクリル酸エステル」「機能性ポリマー」「精密有機合成」を柱とした事業展開をされている大阪有機化学工業株式会社を訪問してきました。
金沢研究所の研究三課でご活躍されているYさんにお話を伺ってきました。




大切な「期限」意識
こんにちは。Yさんが所属されている部署では、今どのようなお仕事をされているのですか?

Y 私の所属している研究三課では、ヘアスプレーやヘアジェル等の化粧品に含まれているポリマーの原料や、医療品のコーティング剤の開発などをおこなっております。

こちらの研究は、入社されてからずっと携わられているのですか?

Y そうですね。

学生時代は、主にどのような研究をされていたのですか?

Y 実は学生時代は全く分野が違いまして、主に有機半導体の合成と物性の評価をしていました。

今とは別分野の研究をされていたのですね。そうしますと、就職活動をされていた時は主にどういったことを軸に企業探しなどをされていたのでしょうか?

Y 学生時代に取り組んでいた有機半導体の分野は、大々的にやっている企業があまり無かったので、そこを攻めるのは難しいかなと思っていました。ですので、もう少し広く「ポリマー系の有機化合物を扱える会社」というものを中心に応募していこうと考えて回っていました。

なるほど。そうした方針で就職活動を進められて、現在実際にポリマー原料を取り扱われる現場で働かれていますが、就職活動当時に描いていたイメージと実際の現場のイメージとに違いなどはありましたか?

Y そうですね、就職活動をしていた頃は、企業の研究現場ではなかなか新人が発言をすることは難しいのではないかな?と思っていたのですが、実際に入社してみますと、新人の頃から意見が言えるといいますか、自分が主体で研究が進められる環境だったことが、想像と実際の現場との違いとしてありました。

新人でも自分の意見を出せる環境なんですね。

Y 先輩に「こういう検討をした方がいいと思うのですが」と相談をすると、「ではやってみよう」「ここはもっとこうしたらいいんじゃないかな」とアドバイスを得られて、思っていた以上に自分で計画を立てて研究ができる環境だなと思いました。

なるほど。ちなみに研究への取り組み方などで、学生時代と今とで違いなどは感じますか?

Y 納期というものへの意識の差が、大きな違いかなと思います。会社に入ると他社の方と連携をとって仕事をしますので、納期を守るという事が大切になってくるのですが、一般的に大学での研究ではその様に納期を意識するということはあまりないと思います。ただ私の学生時代はちょっと特殊で、他の大学との共同研究がメインだったので、納期など実験の計画性の部分では今と同じような感覚で取り組んでいましたので、就職後も戸惑いはありませんでした。

共同研究では、期限への意識は厳しく求められるのですか?

Y はい。一般的な学内での研究ですと、教授の先生と「いつまでにやろうか」といったような計画はありますが、厳密な期限というものはあまりないように思います。ところが共同研究になりますと、やはり相手の研究室の学生の卒業研究や修士の研究に関わってくることになるので、「いつまでに作る」という約束は厳しく守らなければいけない、と強く感じていました。

逆に、学生時代の経験などで「今に活きているな」と感じることはありますか?

Y 私の場合、学生時代の頃からずっと「失敗した時のことを考えて実験や研究をする」という意識をもって取り組んでいまして、それが今の業務に活きているなと思っています。

失敗した時のことを考える?

Y はい。想定していたことと違う結果が出た時、次にどう進むか?ということをある程度予測しながら進めていくと、研究を止めずに続けていくことが出来るので、必要な意識だなと思っています。



「考える」ことが私たちの仕事
「考える」ことが私たちの仕事
常に先を想定した取り組み方というものが大切になってくるんですね。
では視点を変えて現場の先輩として見た場合、研究職を志望する学生として大切だなと思うポイントはどのようなものがあるでしょうか?


Y そうですね。3つの事が挙げられると思います。1つ目は、先ほどの話ともつながりますが「自分で考える」ことが大切なポイントになるかなと思います。分からないことに対しても何かしら自分なりの答えを考えて意見ができる人は、研究者として活きるなと思います。

指示された通りに研究するだけでなく、自分の意見をもつ事が企業の研究現場では大事になってくるんですね。

Y 自分の考えを発言していきませんと、人に言われた事しか出来なくなりますからスキルアップにも繋がりませんし、「考える」というのが私たちの仕事だと思いますので、企業の研究現場では「言われた事をやるだけの人なのか?その先の事まで自分で考えて周辺の事柄まで調べられる人なのか?」というのは、見られているポイントだと思います。

なるほど。

Y なので、学生時代の研究についても、教授からもらったテーマの背景や次の展開まで自分で考えて、色々と研究を進めてくれるような人には、是非来てほしいなと思います。

受け身でいるのではなく、自ら考えて進んでいく人が求められているんですね。

Y 2つ目は「自分の考えを伝えること」だと思います。企業内の研究というのは一人で黙々と取り組んでいればよいというものではなく、製造や営業など色々な部署の人とも一緒に仕事をしていかなければいけませんので、作り上げる過程でそうした人達とのコミュニケーションも大事になってくるんですね。なので「考えること」と合わせて「自分の考えを伝えること」も大切になると思います。

色々な部署の人がかかわって作り上げていくうえで、コミュニケーションは大切ですよね。

Y そして3つ目は「最後まで諦めないこと」だと思います。

諦めないこと、ですか?

Y 会社の仕事の中でその人の真価が問われる瞬間というのは「トラブルが起きた時」だと思うんです。
学生の頃は、トラブルが生じても放置できてしまうこともあると思うのですが、企業の中では報告書にまとめて記録に残さないといけないので、トラブルを放置するという事はできません。なので、失敗した時のプランを考えておいてそれを実行するのか?新たに検討して解決するのか?知っている人に聞いて回るのか?など色々な道はあると思いますが、トラブルが生じた時にどういう対処をするか、上手くいかなくても最後まで諦めないという習慣付けは大事だと思います。



テーマを複数同時に抱えて・・・
ちなみに、漠然とした質問で恐縮ですが、Yさんの仕事の流れというのはどのようなイメージになりますか?

Y そうですね、お客様からお話が来て検討を始めて量産設備で製造が出来た時が、私たちの仕事では一区切りという形になるのですが、その区切りに至るまでの期間は、早いもので2か月、お客様と共同研究をして作り上げていくものですと年単位にもなります。

ものによって大きな違いがあるんですね。

Y 大学の時は研究テーマは1つか2つというのが一般的だと思いますが、このように進み方に違いもありますから、私たちは常にテーマを複数同時並行に持って研究をしています。

複数同時並行ですか?

Y はい。ただ、毎日全てのテーマを同時にやるというわけではなくて、月曜日はテーマAのサンプルを作って、水曜日以降はそれを分析にかけて、分析している間にテーマBを反応にかけて、という感じに重ならないように研究スケジュールを調整しながら仕事を進めていく、というのが私の仕事のイメージになると思います。

効率的にスケジュールを調整しながら、同時並行に進めていくんですね。

Y それぞれのテーマで「このサンプルをこの日までに出さないといけない」「この資料はこの日までにまとめないといけない」という期限があるので、それに間に合うように仕事を組んでいく感じになります。こうした研究の進め方は、学生の頃とはだいぶ違うと思います。

そういうところでも違いがあるんですね。就職活動時にそうした違いは意識されていましたか?

Y 正直なところ、こんなにたくさんテーマを持つとは思っていなかったですね。持っても2つか3つ程度かなと思っていました。

入社してすぐにそうした違いには馴染めましたか?

Y 入社してすぐの頃は、テーマの数は1つや2つ程度に抑えてやらせてもらえましたので、大丈夫でした。慣れてきてから徐々にテーマの数を増やしていった感じです。

最初から4つも5つも、というのは無理ですよね。

Y ただ研究員にも、時間の使い方が上手で複数のテーマを手際よく出来る人もいれば、一度に幾つも考えるのは苦手だけどデータはしっかりと取れる人など、色々なタイプの人がいますので、テーマの性質に合わせてチームで割り振りをうまく調整しながら協力して進めていっています。

そういう点でも。先ほどの話とも繋がりますが、コミュニケーションというのも大事になってきますね。
そうした形で取り組まれているお仕事について、今はどういったところにやりがいを感じていますか?


Y 「人のためになる」というところにやりがいを感じています。先ほどもお話ししたように、今は医療用のコーティング剤の開発をしているので、自分が関わっている製品を通して、より良い医療の提供に貢献できる事にやりがいを感じます。

逆に、今の仕事の難しさはどんなところありますか?

Y 思った通りの性能が出ないケースに直面した時でしょうか。自分が「これが良いのではないか」と考えて設計して、お客様に評価していただいた時に、自分が予想していた様な特性がなかなか出ない事が多いので、そういう時に難しさを感じますね。

なかなか上手くいかないものなのですね。

Y ただ、思った通りにならないというのは、それはそれで面白いことでもありますし、「では、こういうことをしてみよう」という新しい発想にも繋がってくるので、悪いことではないと思います。逆に予想通りにいってしまう方が面白さに欠けるかもしれませんね。

予想通りにいくことも多いのですか?

Y いや、あまりないですね。大概は思った通りにはいかないものです。

期限がある中で、なかなか思った通りにいかないというのは大変ですね。

Y 期日だけでなく、要望の予算に収まらない事などもあるので、その都度お客様と目標を変えたり等調整して研究を進めていきます。

最後になりますが、学生の方へ何かメッセージはありますか?

Y そうですね、在学中は隣の研究室の学生や先生などとも出来るだけ話をする機会をつくるといいと思います。違う分野の人と話をするとコミュニケーション力も身につきますし、自分の研究に役立つ予想外のアイデアを得られることもありますから、色々な分野の人と幅広く交流を持つといいと思います。

隣の研究室と交流する事って多いのですか?

Y 学生時代はあまりないと思います。隣の研究室が何をやっているのか、大概の人は知らない事の方が多いと思います。ただ、自分で考えて調べられることには、ある程度のところで限界があると思うんです。そういう時に別の研究をしている人と話をすると「そんな可能性があったのか」と、自分の知らなかったことに気づかされることもあるので、「隣の人に興味を持つ」という意識が大事かなと思います。

なるほど。自分だけだと考えが堂々巡りになりがちですよね。

Y はい。なので、在学中にいろいろな人と交流を深めてほしいと思います。

本日はありがとうございました。

Y ありがとうございました。



【文責:(株)スプラウト 分須弘二】