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就活
コラム
受託製造のやりがい
神戸天然物化学株式会社[博士修了/機能材料事業部]
業種[医薬品/ファインケミカル/バイオテクノロジー]
「先輩インタビュー」第二回では、機能材料・医薬・バイオの3分野で受託研究開発・受託製造に取り組んでいる神戸天然物化学株式会社を訪問してきました。
入社3年。機能材料事業部でご活躍されているTさんにお話を伺ってきました。


受託研究開発の難しさとやりがい
こんにちは。まずはじめに、所属されている部署について教えてください。

T 機能材料事業部に所属しており、小規模、中規模スケールで反応の最適条件や操作手順の検討を終えた化成品や電子材料など機能性材料の大規模製造業務に携わっています。

少し話はそれますが、大規模製造に入られる前の研究について、神戸天然物化学様は受託研究の事業もされていると伺いましたが、一般的な研究開発と受託研究開発の違いについてお伺い出来ますか?

T 大きな違いとして、受託研究の場合はお客様から開示頂いた処方・品質・納期通りに求められる量を製造する必要があるという部分だと思います。
やむをえず、違うやり方をする場合にも勝手に進めていいわけではなく、一つ一つお客様に確認を取り了解をいただくことを求められる点が自社でおこなう研究開発との違いだと思います。

なるほど。自分で独自に試行錯誤していくのではなくて、お客様の希望に沿った研究開発を進めていくということなんですね。

T もちろん、うまくいかなかった場合は試行錯誤して「こうしたらよいのではないか?」という提案は挙げていきますがお客様の要望が第一です。また、製品の品質も重要です。求められる収量で製品を得られても、その純度が悪ければお客様の要望を満たすことはできません。

逆に、そうしたお客様の希望というものがある分、一般的な研究開発とは違う難しさややりがいというものがあると思いますが、そのあたりはどのように感じられますか?

T 同じ有機合成反応をおこないますので、難しさに関しては似たような点が多いと思います。反応が遅延したり、ひどいときには停止してしまったり…。また、反応後の後処理工程がうまくいかない時等です。逆に、処方ルートを改良することで高収率にできたり、精製不要で次工程へ進めたりといったような開発ルートを提案できた際には、非常にやりがいを感じます。

なるほど。ちなみに就職活動をされていた時は、研究開発のお仕事を志望されていたかと思うのですが、こうした受託研究のお仕事がある企業を志望されたポイントは、どのようなものがありますか?

T 例えば製薬会社さんですと文字通り薬を作る創薬が主な業務となるわけですが、調べるうちに合成はその業務の一部分でしかないということを知りました。それならばモノを作るための最適ルートを検討したり、いかにして安全に効率よく大量生産できるのかなどといった合成に終始携わっていられるような仕事の方が自分に向いているのではないかと考えたからです。

では、就職活動は受託系の企業を中心に応募されていたんですね。

T はい。おっしゃる通りです。



大規模製造の現場で働くこと
Tさんは先ほど、大規模製造の現場に携わってこられているとのことですが、大規模受託製造の仕事の難しさなどはどのようなものがありますか?

T 機能性材料に限りませんが、開発は、工場スケールで製造できるよう、スケールアップに耐えうる合成ルートや操作手順に改良していくことが目的となります。そのため小規模・中規模のスケールで製造上の問題点を克服していくことが非常に重要となります。
しかし、実際に工場スケールで製造をおこなってみると、反応熱が思った以上に大きく安全に作業を続けることが難しかったり、分液性やろ過性が悪くて時間がかかって苦労するといった事が起こります。安全はもちろん第一に意識するべき点ですが、製造時間が長くなるとそれだけコストがかかったり品質に悪影響を与えたりすることもありますのでこの点も強く意識しなければいけません。

学生の頃は、どのくらいの規模まで取り扱われたことがありますか?

T 学生の頃は最大でも数グラム規模での経験しかありませんでした。製造の現場では数十キロ~数トンまでの規模で取り扱っていましたので、学生の頃に比べると本当に大きく規模が違いますね。

それは大きな違いですね。

T こうしたスケールの違いによるリスクなどについては入社してから学んだことがほとんどなので、安全面については会社に入ってから身についたと思います。また、危険物取扱者をはじめ有機溶剤・特化物作業主任者などの資格についても、取得に係る費用を会社が補助してくれますので、それによって安全に関する理解を深めていきました。

そうした業務の実像に関して、就職活動当時に思い描いていたイメージとの違いなどはありますか?

T 違いについては、私の企業研究が不足していたのもあったかもしれませんが(苦笑)、当初は研究をたくさんやっている会社かなと思っていたのですが、実際に入社してみたら製造業務にも同じくらい重点が置かれていたという点が、当初のイメージとの違いかなと思います。

謂わば新しいルートを模索していく研究開発に対して、出来上がったレシピに沿って大規模に製品を作っていくという製造の仕事では、研究とはまた違った面白さややりがいなどがあると思いますが、その点は如何でしょう?

T やはり学生時代には経験できない大量のものを取り扱うので、出来上がったものを見た時に、純粋に「こんな大規模のものをつくったんだ」という達成感を感じます。あとは規模が大きいですのでいろいろな装置を扱うことができるのも面白さの一つだと思います。5000L もある反応釜で作業をおこなうことも多いのですが、基本的に2人以上で作業をおこなっていきますのでお互いのコミュニケーションが大事になる所も「難しくもあり楽しくもあり」という感じです。

1人ではなくチームでの仕事が多いイメージなんですね。

T はい。安全面からも作業効率からも、工場では一人で作業することはほとんどなく、基本は2人またはそれ以上、そして多くの方と交替勤務を組んで作業することもあります。

ちなみにイメージとして、一つの製品を作り上げるまでの期間というのはどれ位かかるものなのでしょうか?

T そうですね。短いもので1週間、長いと1年以上関わるものもあります。出発物質から最終物質まで工程数が多い物ですと、半年や1年近くかかることは珍しくありません。




「納期」で変わった意識
「納期」で変わった意識
研究に対する取り組み方などで、学生時代と今とで、違いなどはありますか?

T 期限・コスト意識が一つの違いかなと思います。学生時代も一応研究の期限というものはありましたがそれほど厳しく意識はしていませんでした。また、手段が目的化していたところもあって、何かを明らかにしようとして実験していたはずが、いつしか実験をすることが目的になっていたことが多かったように思います。会社に入りますと、納期は決まっているためこれを意識して動くという習慣がつきました。また、これは効率よく作業を行うという点で製造コストを少なくすることにも大きく関わってきます。

納期が生まれたことで変わったところなどはありますか?

T 「段取り八分」は上司より何度も言われた言葉です。目の前の作業ももちろん大事ですが、次の作業、さらにその次の作業の流れを理解することで、無駄なく効率よく次に使う装置の準備や次の作業をすることができます。配属当初はなかなか慣れませんでしたが、今は製造現場でだいぶ鍛えられ成長していると感じます。

ちなみに、実際の一日の業務の流れとはどのような感じになりますか?

T 始業の30分ほど前からその日使う装置を立ち上げたり、原料や試薬を現場に運んで準備をした後、今日の作業予定を共有する朝のミーティングに出席します。その後、始業開始時刻少し過ぎから製造スタートという形になります。1週間の区切りで考えますと、「月曜日に反応を仕込んで反応終了まで、火・水曜日に後処理をおこない、木曜日に精製後の製品や中間体を製缶し、金曜は現場の片付け・清掃や次工程の準備をおこなう。」という流れが一般的です。

まさに一週間の区切りで一つの仕事になるようなイメージなのですね。

T 基本的にはそのような形で計画的に進められています。ただ、突発的にトラブルなどが生じることもありますので、その場合にはちょっと残業が生じることはあります。




今に活きる学生時代の経験とは
少し話は変わりますが、今振り返ってみて、学生時代に経験したこんな事が今役に立っているな、というような事柄はありますか?

T 私は車が好きでドライバーやスパナなどの工具を使って車のメンテナンスなど自分でやっていたのですが、製造現場に入るとそうした工具を比較的よく使うので、そうした経験が役に立っているなと感じます。

工具を使うのですか?

T はい。ろ過器や反応釜のボルトを締めたり緩めたり、インパクトレンチで大きなボルトを締めたりするなど工具を使う機会が多いのですが、経験があったおかげで抵抗なく入っていけたと思います。

慣れていないと戸惑ってしまいますよね。

T ビックリするくらい大きなボルトが有ったりするので、その点は経験があってよかったなと思います。

あと逆に、今だからこそ見える「これは大事だな」と思える学生時代のポイントなどはありますか?

T そうですね。「元気な事」と「健康」だと思います。

「元気」と「健康」ですか

T はい。製造現場の仕事は頭も使いますが、比較的体力仕事の面もあります。工場で製造しますのでドラム缶を移動させたり大量の原料を仕込んだりすることもあるので、元気なことと健康は大切だなと感じています。

なるほど。

T あとは、合成技術だけでなく分析機器を扱った経験も大事だと思います。配属されたばかりの新人でも反応チェックや工程分析などは任せてもらいやすい仕事になりますし、教育の時間を短縮できる点も現場からは歓迎されます。また製造部門だけでなく品質管理部門でも非常に役立つ経験ですのでいろんな機器を扱えることは武器になります。

学生時代、分析機器に触れる機会というのは、多くないものなのですか?

T 有機合成をやっている研究室ならどこでも1台はあると思いますし、私の場合は比較的多くの機器を学生時代に扱うことが出来るようになりました。大学によっては希少な装置を持っていたりもされるので、実際に扱ってみるということは大事だと思います。

就職した際、これは初めて触れるな、という機材などは多かったですか?

T 装置自体は扱ったことがあるものが多かったですが、装置メーカーによって操作方法が少し異なったり、データの解析ソフトの扱いに慣れるのに少し時間がかかったと思います。

なるほど。

T 「学生時代にあの装置を使えるようになっておけば、入社してから楽だったな。」と思うことも何度かありました。実際に扱った経験があれば、入社後に先輩から教わる時間も短縮できますし、自分も自信を持って「できます」と仕事を任せてもらえる機会も増えますので、合成の技術だけでなくいろんなことに興味をもつことが大事だなと思います。

最後の質問になりますが、今まで経験された業務を総体的に振り返ってみて、どういった学生の方だと受託製造の現場に「合うな」と感じられますか?

T ある程度の合成の知識や経験があることはもちろんなのですが、元気があってハキハキと受け答えできる人であればうまく仕事をこなせていけると思います。

今の職場の皆さんも元気な人が多い感じですか?

T はい。いい意味で体育会系な感じの人も多いと思います。

意外な印象ですね。

T 「YES」「NO」がはっきり言えることは重要だと思います。

そうした主張は大事なんですね。

T はい。指導する立場からするとYES/NOがはっきりしている人でしたら、「わからなければ教える」、「教えなくてもできるならそのまま任せられる」といった判断がすぐできます。任せたけれども結局出来なかったというのが一番困りますので、もちろん出来ないことばかりでも困りますが、自分の力量(自分にはどのようなことがどれくらいできるのかということ)を分かっている人はうまくやっていけると思います。

自分の状況を理解して、それにについて先輩や上司と密にコミュニケーションをとっていくことが大事なんですね。

T また、安全面からですと、工場では溶剤や薬品などの可燃物・危険物を日々大量に扱います。一人で作業するわけではありませんので、作業者同士、コミュニケーションを密に取らなければ事故が発生することにもなりかねません。ですので、ハキハキ受け答えできる方や現場の状況を理解してレスポンスよくやりとりできる方はきっと優秀な現場の技術者になれると思います。

ありがとうございます。それでは最後に、学生の皆さんにメッセージなどがございましたらお聞かせください。

T 合成技術だけでなく、私の場合は分析機器の取扱いや車の整備などが会社に入って仕事をする上で役に立ちました。将来何かの形で役に立つことがあると思います。自分の興味を限定せず、いろいろなことにチャレンジしていってください。

本日はありがとうございました。

T ありがとうございました。  
                                      

【文責:(株)スプラウト 分須弘二】