就活
コラム
コラム
有機合成の現場から
有機合成薬品工業株式会社[修士修了/研究職]
業種[医薬品/ファインケミカル]
業種[医薬品/ファインケミカル]
今回、「先輩インタビュー」第一回では、食品・医薬品・工業製品の3分野で70年以上有機化合物の研究・開発・製品供給に取り組んでいる有機合成薬品工業株式会社を訪問してきました。入社して4年目。研究職として活躍されているKさんにお話を伺ってきました。
大学の研究室での研究と、仕事としての研究
―こんにちは。まずはじめに今取り組まれている仕事内容を教えてください。
K はい。まず私たちは化合物を工場で大きなスケールで製造していくのですが、そのためには、事前に合成ルートの選定や、溶媒・触媒・当量の検討など反応の最適条件と操作手順をつくりあげて、最終的に中間スケールでの試作を研究所で行います。私はそこで医薬品原薬の合成検討を行っています。
―Kさんは学生時代はどのような研究室にいらしたのですか?
K 大学時代は有機合成の研究室に所属していまして、そこでは一つの反応の開発というのが研究テーマでした。
―同じ有機合成の研究ですが、大学の研究室での研究と、今のお仕事に違いなどはありますか?
K 「目的」が大きく違うな、と思います。
―目的、ですか?
K 大学の研究というのは学術の追及で、研究のための研究という意味合いなのですが、企業での研究は「製品を作るための研究」なんですね。それなので、学生の頃は「現象」をかなり重視していたと思いますが、企業の研究員は細かい現象を追求するわけではなく、「効率よく物を作るためにはどうしたらよいか」を重視します。
―なるほど。
K なので、使う試薬や反応時間についてもコストを意識する事が大切になってきますし、なにより「安全」でなければいけません。安全性というものを学生時代は考えられていなかったと思います。
―学生時代、安全性はあまり意識しなかった?
K そうですね。大学では小さいフラスコで研究するので危険なことは実際ほとんど起こらなかったですね。けれども、フラスコ内では「ポッ」という小さな爆発でも、それが工場スケールになると甚大な爆発になってしまうので、安全性への意識の差が大きく違うなと思います。
―Kさんは、就職活動をされた時はどういった企業をまわられたのですか?
K 合成一本という形で考えていて、初めは製薬会社を検討していたのですが、調べていくうちに「製薬会社は違うな」ということに気が付くようになりました。製薬会社では勿論合成もすると思うのですが、それは一部の業務でしかないんですね。説明会などを見ているうちに途中で気が付きました。そこから、自分がやりたい事は化学系企業にあるのだと分かって、完全にシフトしました。
―同じ合成の業務でも違いがあるのですね。
K 製薬会社の場合は新しい化合物を探して薬を作る「創薬」が主な仕事で、合成はその一部の仕事になるんですね。今私は医薬品原薬の合成の研究をしているのですが、これは「化合物を作る方法を研究開発する」ことが主な仕事になるんです。
―それは大きな違いですね。
K 学生時代は「化学の力で物を作っていく」という仕事をしたいと思っている人は多いと思うのですが、「創薬」と「化学系企業でものを作る業務」は全く違いますね。
―そこに早く気が付くかで就職活動も変わってきますね。
K そもそも「薬をつくる」というプロセスはとても長いもので、何百何千という化合物の中で特定の細胞を使って活性のあるものを探し、ステップを踏んで絞り込んでいきながら、並行してその化合物を大きく作る準備を進めていく。その長い工程の中で自分がどう関わっていきたいのか?それができる企業はどこなのか?ということをはっきりさせるのが大切かと思います。
―そうした形で企業を探していくことで、自身のPRすべき事柄も変わってくると思いますが、Kさんの目から見て、学生時代の研究経験で今役に立っているなと感じる事柄はありますか?
K 大学の研究室で頑張って身に着けたことは、全部役に立つと思います。身に着けたスキルや経験、合成の教科書的な知識は、いくらあってもいいと思います。大学時代自分は、とにかく実験だ!という研究生活だったので、論文とかもあまり読めていなかったと思いますが、教科書的な部分の勉強はもっとやっておくべきだったと思います。
K はい。まず私たちは化合物を工場で大きなスケールで製造していくのですが、そのためには、事前に合成ルートの選定や、溶媒・触媒・当量の検討など反応の最適条件と操作手順をつくりあげて、最終的に中間スケールでの試作を研究所で行います。私はそこで医薬品原薬の合成検討を行っています。
―Kさんは学生時代はどのような研究室にいらしたのですか?
K 大学時代は有機合成の研究室に所属していまして、そこでは一つの反応の開発というのが研究テーマでした。
―同じ有機合成の研究ですが、大学の研究室での研究と、今のお仕事に違いなどはありますか?
K 「目的」が大きく違うな、と思います。
―目的、ですか?
K 大学の研究というのは学術の追及で、研究のための研究という意味合いなのですが、企業での研究は「製品を作るための研究」なんですね。それなので、学生の頃は「現象」をかなり重視していたと思いますが、企業の研究員は細かい現象を追求するわけではなく、「効率よく物を作るためにはどうしたらよいか」を重視します。
―なるほど。
K なので、使う試薬や反応時間についてもコストを意識する事が大切になってきますし、なにより「安全」でなければいけません。安全性というものを学生時代は考えられていなかったと思います。
―学生時代、安全性はあまり意識しなかった?
K そうですね。大学では小さいフラスコで研究するので危険なことは実際ほとんど起こらなかったですね。けれども、フラスコ内では「ポッ」という小さな爆発でも、それが工場スケールになると甚大な爆発になってしまうので、安全性への意識の差が大きく違うなと思います。
―Kさんは、就職活動をされた時はどういった企業をまわられたのですか?
K 合成一本という形で考えていて、初めは製薬会社を検討していたのですが、調べていくうちに「製薬会社は違うな」ということに気が付くようになりました。製薬会社では勿論合成もすると思うのですが、それは一部の業務でしかないんですね。説明会などを見ているうちに途中で気が付きました。そこから、自分がやりたい事は化学系企業にあるのだと分かって、完全にシフトしました。
―同じ合成の業務でも違いがあるのですね。
K 製薬会社の場合は新しい化合物を探して薬を作る「創薬」が主な仕事で、合成はその一部の仕事になるんですね。今私は医薬品原薬の合成の研究をしているのですが、これは「化合物を作る方法を研究開発する」ことが主な仕事になるんです。
―それは大きな違いですね。
K 学生時代は「化学の力で物を作っていく」という仕事をしたいと思っている人は多いと思うのですが、「創薬」と「化学系企業でものを作る業務」は全く違いますね。
―そこに早く気が付くかで就職活動も変わってきますね。
K そもそも「薬をつくる」というプロセスはとても長いもので、何百何千という化合物の中で特定の細胞を使って活性のあるものを探し、ステップを踏んで絞り込んでいきながら、並行してその化合物を大きく作る準備を進めていく。その長い工程の中で自分がどう関わっていきたいのか?それができる企業はどこなのか?ということをはっきりさせるのが大切かと思います。
―そうした形で企業を探していくことで、自身のPRすべき事柄も変わってくると思いますが、Kさんの目から見て、学生時代の研究経験で今役に立っているなと感じる事柄はありますか?
K 大学の研究室で頑張って身に着けたことは、全部役に立つと思います。身に着けたスキルや経験、合成の教科書的な知識は、いくらあってもいいと思います。大学時代自分は、とにかく実験だ!という研究生活だったので、論文とかもあまり読めていなかったと思いますが、教科書的な部分の勉強はもっとやっておくべきだったと思います。
企業の研究者として働くこと
企業の研究者として働くこと
―逆に学生について先輩としてみる場合、どういうポイントを見ますか?
K 私でしたら、有機合成という部分に限定すると、どの学生もある程度の経験や知識は持っていると思うので、仕事として・企業の研究者としてやっていけるかな?という点を見ると思います。
―企業の研究者として、ですか?
K 自分もそうだったのですが、学生時代は半分趣味として研究をやっている部分があるんですよ。
学生時代は周りの人間を見ても半分以上はそうでしたね。
でも企業の研究の場合、趣味の感覚でできる部分は無いかな、と思うんです。
学生時代の修士論文は、テーマや研究方針は自分で決める事ができるのですが、企業の場合はお客様が有りきですし、実験自体も企業の研究室内だけで行うわけではなく、中規模のパイロットスケールでの試作やその先の大規模製造までするので、そこまで考えると趣味の感覚でできる事では無いんですね。なので、有機合成の研究を本当に仕事として出来るか?という意識の面を注視したいと思います。
―その「企業の研究者」として、今の仕事で甲斐になってるものは?
K そうですね、最近ですと、パイロットの試作が実験室でやった通り上手くいったのが確認出来た事ですかね。何工程もあるので、実験室でやった通り上手くいくと安心感と嬉しさがありますね。
―なかなか実験室規模の通り上手くいくわけではないのですね。
K 最終的に工場で何十トンと作るのを仕事とするので、パイロットスケールで膿を出すということは良いことではあるんですね。小さな反応釜で作るのと何百リッターという規模で作るのでは、その差は絶対に出てくるので、全部同じ様にいかなければいけないというわけではないです。
ただ、大学時代の研究ですと、実験結果の比率差が85%でも90%でも許容範囲ですが、企業ですと「90%が85%になりました」では5%分がコストとなりますし、その5%が不純物となると更に比率に繋がっていくので、そうしたシビアさが大学の研究と企業の研究現場の違いですし、上手く行った時の嬉しさに繋がってると思います。
―それは確かに厳しい部分ですね。
K ものを大きいスケールで作る仕事というのがこんなに大変なのか、という事は学生時代には想像もつかなかったですね。外からは分かりにくい仕事だと思います。
―就職活動時、そうしたシビアさというのは意識されてましたか?
K 就活時にも意識は無かったですね。こうした仕事の流れやシビアさが見える様になるまで3年はかかったかな、という感じはしています。
まず、ひとつのテーマが完結するのに1年近くかかるんですね。最初に文献調査から始まります。それから合成法が色々と出てきて、そこから注意しなきゃいけない特許を調べ、次いで合成ルートを調べるのにも数ヶ月かけるんです。それから文献読みと並行しながら初期の100ml程度の小さな実験をしていくわけですが、それで半年くらいかかります。その後少しスケールをあげると、また新しくわかる事が出てくる。そして最終的に600Lのテストプラントで500倍にスケールアップして実験をする。そうするとまた問題点も出てくるので、その問題をクリアするのに数ヶ月かかる。これを研究所というくくりの中で見ると、ひとつの仕事のサイクルが1年から1年半かかるので、シビアさを含めた仕事の全貌を理解するのには3年はかかるな、と思います。
―とても長いですね。
K そうですね。ひとつのテーマをやり切るスパンというのが長くて重い仕事なので、そこが深くやりがいにも繋がると思います。
―それは、上手く行った時の喜びもひとしおですね。
K 本当に、合成が好きで熱意を持った人だと活きる仕事だと思います。
―熱意、ですか。
K 熱意はとても大事だと思います。最終的には危険物を扱いますし、現場の方が作業をされるので、危ないプロセスが有りますと怪我をしますから、安全を見ながら、そうした制約の中でも自分の創意工夫をどれだけ盛り込めるか?という楽しみがあるので、熱意というのが大切になってくると思っています。
―では最後に、学生の方へ「こんな事を頑張っておくと良いよ」というメッセージはありますか?
K そうですね、色んな分野の勉強をしておくと良いよ、と思います。仕事は勿論合成がベースになりますが、それ以外の分析化学とか物理化学とか違う分野の話も意外と入ってくるので、在学中にちょっとそうした授業に顔を出してみるというのも良いと思います。
あと、研究でも研究以外のことでもそうですが、学生のうちにいろんな経験を積んでおくといいと思います。学生時代の経験って、意外なところで活かされますよ。
―本日はありがとうございました。
K ありがとうございました。
【文責:(株)スプラウト 分須弘二】
K 私でしたら、有機合成という部分に限定すると、どの学生もある程度の経験や知識は持っていると思うので、仕事として・企業の研究者としてやっていけるかな?という点を見ると思います。
―企業の研究者として、ですか?
K 自分もそうだったのですが、学生時代は半分趣味として研究をやっている部分があるんですよ。
学生時代は周りの人間を見ても半分以上はそうでしたね。
でも企業の研究の場合、趣味の感覚でできる部分は無いかな、と思うんです。
学生時代の修士論文は、テーマや研究方針は自分で決める事ができるのですが、企業の場合はお客様が有りきですし、実験自体も企業の研究室内だけで行うわけではなく、中規模のパイロットスケールでの試作やその先の大規模製造までするので、そこまで考えると趣味の感覚でできる事では無いんですね。なので、有機合成の研究を本当に仕事として出来るか?という意識の面を注視したいと思います。
―その「企業の研究者」として、今の仕事で甲斐になってるものは?
K そうですね、最近ですと、パイロットの試作が実験室でやった通り上手くいったのが確認出来た事ですかね。何工程もあるので、実験室でやった通り上手くいくと安心感と嬉しさがありますね。
―なかなか実験室規模の通り上手くいくわけではないのですね。
K 最終的に工場で何十トンと作るのを仕事とするので、パイロットスケールで膿を出すということは良いことではあるんですね。小さな反応釜で作るのと何百リッターという規模で作るのでは、その差は絶対に出てくるので、全部同じ様にいかなければいけないというわけではないです。
ただ、大学時代の研究ですと、実験結果の比率差が85%でも90%でも許容範囲ですが、企業ですと「90%が85%になりました」では5%分がコストとなりますし、その5%が不純物となると更に比率に繋がっていくので、そうしたシビアさが大学の研究と企業の研究現場の違いですし、上手く行った時の嬉しさに繋がってると思います。
―それは確かに厳しい部分ですね。
K ものを大きいスケールで作る仕事というのがこんなに大変なのか、という事は学生時代には想像もつかなかったですね。外からは分かりにくい仕事だと思います。
―就職活動時、そうしたシビアさというのは意識されてましたか?
K 就活時にも意識は無かったですね。こうした仕事の流れやシビアさが見える様になるまで3年はかかったかな、という感じはしています。
まず、ひとつのテーマが完結するのに1年近くかかるんですね。最初に文献調査から始まります。それから合成法が色々と出てきて、そこから注意しなきゃいけない特許を調べ、次いで合成ルートを調べるのにも数ヶ月かけるんです。それから文献読みと並行しながら初期の100ml程度の小さな実験をしていくわけですが、それで半年くらいかかります。その後少しスケールをあげると、また新しくわかる事が出てくる。そして最終的に600Lのテストプラントで500倍にスケールアップして実験をする。そうするとまた問題点も出てくるので、その問題をクリアするのに数ヶ月かかる。これを研究所というくくりの中で見ると、ひとつの仕事のサイクルが1年から1年半かかるので、シビアさを含めた仕事の全貌を理解するのには3年はかかるな、と思います。
―とても長いですね。
K そうですね。ひとつのテーマをやり切るスパンというのが長くて重い仕事なので、そこが深くやりがいにも繋がると思います。
―それは、上手く行った時の喜びもひとしおですね。
K 本当に、合成が好きで熱意を持った人だと活きる仕事だと思います。
―熱意、ですか。
K 熱意はとても大事だと思います。最終的には危険物を扱いますし、現場の方が作業をされるので、危ないプロセスが有りますと怪我をしますから、安全を見ながら、そうした制約の中でも自分の創意工夫をどれだけ盛り込めるか?という楽しみがあるので、熱意というのが大切になってくると思っています。
―では最後に、学生の方へ「こんな事を頑張っておくと良いよ」というメッセージはありますか?
K そうですね、色んな分野の勉強をしておくと良いよ、と思います。仕事は勿論合成がベースになりますが、それ以外の分析化学とか物理化学とか違う分野の話も意外と入ってくるので、在学中にちょっとそうした授業に顔を出してみるというのも良いと思います。
あと、研究でも研究以外のことでもそうですが、学生のうちにいろんな経験を積んでおくといいと思います。学生時代の経験って、意外なところで活かされますよ。
―本日はありがとうございました。
K ありがとうございました。
【文責:(株)スプラウト 分須弘二】