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就活
コラム
凝集剤の研究者として
ハイモ株式会社[修士卒/研究職]
業種[高分子/環境/その他機能性化学品(有機・無機)]
「先輩インタビュー」第十七回では、様々な形で利用された水を澄んだ元の姿に戻し、自然へ還元させる高分子凝集剤の製造・販売をしているハイモ株式会社。その研究開発本部で活躍されているTさんにお話を伺ってきました。入社5年目を迎える若手研究者として見えてきた現場のお話を伺います。




ビーカースケールからパイロットスケールまで・・・
本日は宜しくお願い致します。早速ですが、Tさんが所属されている部署について教えていただけますか? 

T はい。今は研究開発本部の製造技術グループというところで、主に新製品の開発を行っています。私の業務は、弊社の中でも特殊品というグレードのものを扱っておりまして、既存の設備では作れないものを中心に、設備の新設や改良も含めてビーカースケールからパイロットスケールまでを一括して取り扱う研究開発となるため、製造技術グループの所属という形になっています。

一般的にはビーカースケールでの研究開発は一つの研究グループが担当されて、スケールアップはまた別の方が担当されるという形が多いかと思いますので、なかなか他ではそうした形の業務は無いですね。 

T そうですね。ケースバイケースですが、スケールアップだけでなく場合によっては営業の場に立ち会うこともありますので、そうした事も一括して関われるというところは、この職場の一つの魅力かなと感じていますね。

なるほど。幅広く関われる部分は魅力と思いますが、同時に、取り扱うスケールの幅が広いと気を遣う要素というものも多様に広がってきますね。 

T 注意しなければならないポイントというのは、確かにスケールごとに全く違ってきますね。特に大きいスケールは実際にやってみないと気付けないところはありますね。ただ、ダウンスケール検討ではないですが、大きいスケールを初めて経験したからこそ、小さいスケールでの研究開発に対しても考え方が変わるという部分はあるかなと思います。

なるほど。実際に大きいスケールを取り扱って気付いた事にはどのような例がありますか? 

T そうですね。一つには電気コストがありますね。ビーカースケールの実験設備では、すぐに反応を見ることができますし、設備的にも然程電気代というものはかからないと思いますが、工場規模の設備を長時間稼働させますと、そこにかかる電気コストだけでもかなり大きくなると思います。そうした点も、小さいスケールの研究開発の段階でも、頭に入れておかないといけないなと思っています。

そうしたコスト感覚というものは、学生時代だと意識し難い部分かもしれませんね。 

T そうした意識は正直無かったですね。




学生時代に思い描いた現場と実際の現場・・・
学生時代に思い描いた現場と実際の現場・・・
Tさんは、学生時代はどのような研究をされていたのですか? 

T 学生時代は高分子系材料の研究をしていました。具体的には、少し生物系なのですが、細胞を高機能化させるようなゲルの研究をしていました。

なるほど。そうしますと、高分子系というところではある種共通する部分があるんですね。

T 畑は少し違いますが、基礎学問的には学生時代に学んだことが今の業務に使える部分はあったかなと思います。ただ、取り扱っている分子量などが全く違いますので、活かせない部分というのも正直なところありますね。

ちなみに、就職活動を始められた際、どういったことを軸に企業探しをされましたか? 

T やはり自分は化学が好きで、新しいことを見つけるという事に関わりたくて理系学部を選んで大学院まで行ったので、「研究職」という事にかなりウェイトをおいて企業探しをしました。その上で、研究室的にはコロイド化学なども扱っていましたので、そうした分野で学んだことを活かせる企業に就職出来たら尚良いかなと思っていました。

なるほど、そうした中から、今の職場を選んだという事ですね。 

T そうですね。研究内容としてはかなりマッチしたかなと思っています。

Tさんは今、入社5年目と伺いましたが、丁度現場の業務の全体像が見えてきた頃かなと思います。その現状から就職活動当時を振り返ってみて、当時のイメージと実際の業務で合致している部分とギャップがあった部分についてお話を伺えますか? 

T 自分の今の業務は、基本的には学生時代思い描いていたイメージ通りだったかなという印象です。

思い描いた通りでしたか? 

T 朝出社して・研究して・考察をまとめて・レポートを書いて、という業務の流れとしては、思い描いていた形の通りだったなと思います。ただ、研究に関する考え方のウェイトという部分については企業と大学では違うなというものは感じます。

考え方のウェイトの違い、ですか? 

T 大学の研究室は学問を重視する場で、「どうしてこうなったか」というメカニズム考察やそれをまとめる事が重視されていると私は考えているのですが、企業はあくまで利益を追求する事が大前提であると思うので、結果とスピードが重視される場だと思います。なので、企業でも考察は大切なのですが、性能が良いものを安価に作るという事がベースとして求められると思います。

高性能という事だけではいけないわけですね。 

T あと時間管理と安全面の配慮についての考え方も、企業と大学とではかなり違いがあったなと思います。

時間管理と安全面の配慮ですか? 

T 大学の研究室も決してそうした配慮をしていないわけではないのですが、比較的学生は自由な時間の使い方でのんびりと研究をしていたと思います。しかし企業は人件費というコストが生じるので、決められた時間内で如何に効率よく成果を出すかという事が求められます。そのため、不必要な実験というものは極力削らなければなりませんので、そうした考え方が学生時代と今とでは違いがあるかなと感じます。

そうした意識の違いというものは、研究への取り組み方などにも変化を生むものですか? 

T 大学での研究では「条件を二つ変えてはいけない」という事が研究者としては当たり前の意識としてあるのですが、企業の研究現場では、明らかに一つの条件がある程度予測できる場合は、一つ工数を減らす事が出来るので、二つ目の条件を変えて検討してみるということはあります。企業の場合は、ある程度目星をつけて効率よく研究を進めて、当たりがあるところをしっかりと見つけて最短で進めていくという事が大事になると思います。





企業の研究現場で活きる人とは・・・
少し話は変わりますが、今の業務に取り組まれている時に、学生時代のこんな経験が活きているなと感じるものはありますか? 

T  そうですね、一つ挙げるとすると、論文を読むスキルは確実に今の業務の中で活きているなと感じますね。

論文を読む力ですか? 

T 大学時代よりも読む機会は減っているのですが、今も最新の研究や研究テーマに関連する文献を読むことはあり、そうした論文は大概英語なんですね。大学院時代にかなり英語の文献を読んでいたので、そういう時に抵抗なく読めるのは大きな力になっているかなと感じています。

学生時代に英語の勉強も良くされたんですか? 

T 英語の勉強という形で特に取り組んだわけではないので、話したり書いたりというのはそんなに得意ではないのですが、英語の文献がほとんどでしたので、読むことについての抵抗はないですね。

なるほど。そうしますと、今も最新の研究について学ぶ時間を作られているという感じなのですね。 

T 勿論、日常の業務が優先なのですが、研究職ですので新しい分野への開拓というのも大事だと思うんですね。なので自分としては新しいことを学ぶ時間というものは作るようにしています。

たしかに、研究者として新しい領域の開拓というのは大事ですね。 

T 私のグループリーダーは「研究者は、5日ある内4日は会社の仕事をしっかりとやり、1日は自分の好きなことをやれ」という考えの方なんですね。なので、今の業務の中でも、作業の合間や忙しくない時期に自分が探求したいテーマについて学んだり、学会やセミナーに参加したりしています。

すべての時間を業務に費やしてしまうと、研究者としての成長が停滞してしまいますから、そうした意識というのは大事ですね。 

T そう思います。

少し視点を変えた話になりますが、そうした今のTさんの職場を考えた場合、Tさんから見てどの様な学生の方だったら合うと思いますか? 

T そうですね、研究をする姿勢がしっかりしている方かな、と思います。

研究する姿勢、ですか? 

T 極端な言い方をしますと、研究職って頭を使わなくても出来てしまうと思うんです。例えば、言われた事を指示通りに行って結果を上司に報告して、考察は上司に任せてしまうという形でも仕事としてはできなくはないと思うんです。でもそれは研究者としてはよくないと思うんです。

なるほど、指示通りに動いていれば表面上は仕事の体裁は整えられてしまうという面はありますね。 

T なので、言われた事についてまず「なぜ?」を考えられる事が大事だと思っています。「これをやって」と言われた時に「なぜこれをやるんだ?」と考え、実験をして結果が出た際にも「何故こうなったのか?」を自分なりに考察して、且つそこから派生した自分なりの提案が出来ることというのが、難しいことだとは思いますが、研究者として必要な姿勢だと思いますので、そういう学生の方だったら合うんじゃないかなと思います。

確かに大学の研究室の学生の方の中には、指導教員の方の指示に黙々と忠実に従っていく、というタイプの人もよくいますよね。 

T そうですね。そういう方がいると円滑に進むこともあるとは思うのですが、やはり研究者というのは考えることが第一の仕事であって、手を動かすことが仕事ではないと思うんですね。なので極端な話、自分で考えて考察出来て製品を生み出せて、自分の製品で会社を潤すんだくらいの気持ちを持った人の方が企業の研究現場には合っているんじゃないかなと思いますね。

先ほどお伺いした、当たりをつけて効率的に業務を進めていくという点でも、要所要所で気付きを見つけられるかという部分で、そうした自分で考えられるかというポイントが大きく関わってきそうですね。 

T 勿論、経験値によるところも大きいとは思います。けれども、私の上司や先輩社員にはかなりスキルを持った方が多くいるので、そうした方へ貪欲に聞きに行って自分の工数を減らすんだ位の気概を持って取り組むと、研究者として成長していくと思いますし、そこから派生した技術とかも出てくると思います。そうしていくためには、まず自分で考えるという土台が欠かせないと思います。

その他に求める要素などはありますか? 

T 技術的なものは企業に入ってから身につければいいと思いますが、器用な方はどこにいっても上手くやっていけるかな、と思いますね。

器用さですか。 

T 手先の器用さもそうですが、考え方の器用さを持った方というのは、どこへ行っても頼りにされると思います。

なるほど。 

T あと、学問的な面では、数学や物理化学といった学問は企業へ入社した後もよく使うので、そうした基礎知識がしっかりしている方は仕事がしやすいかな、と思います。

そうした基礎的な知識というのは、入社後必要な場面に直面してから学び直そうとしても、なかなか難しいものですよね。 

T そう思いますね。なので、そうした基礎的な土台が厚い人は企業の研究現場で強いんじゃないかなと思いますね。

今のお話と繋がってしまうかと思いますが、もしTさんが学生時代に戻れるとしたら、これをやっておきたいなというものはありますか? 

T 熱の伝わり方などは物理化学の概念なので、物理化学については得意ではあったのですが、もっと勉強しておいても良かったかなと思います。あと、そうしたところに微分積分などがよく出てくるので、数学をもう一回ちゃんと学びたいなと思いますね。就職活動の場でも、そうしたものが出来るという事はアピールポイントになるんじゃないかなと、個人的には思います。





今、取り組むべきこと・・・
今、取り組むべきこと・・・
これから就職活動をされる学生の方へ、こういったことを頑張るといいと思うというようなポイントはありますか? 

T 個人的な考えですが、専門的な勉強というものは就職してからでもいいのかなと思います。例えば私たちの会社では、高分子化学やコロイド化学が基礎概念に来ると思うのですが、そういった学問というのは、本気を出せば2週間ほどである程度マスター出来るので、専門的な知識の習得は実際に現場でポリマーなど触ってからでもいいのかなと思います。ただ、最低限の英会話はできた方がいいかな、と思います。

英文の読解ではなく、英会話ですか? 

T この業界に限ったことではないと思いますが、今後、海外への事業展開や海外へ出張をする機会というのは自然な流れとして出てくると思いますし、その際に英会話は必須になると思うんですね。その上で、企業人としても研究者としても英語を話すことが前提となる時代が、比較的近くまで来ているのではないかなという事は感じますので、英会話はできるようになっておくといいと思います。

やはりTOEICなどの学習も重要になってくる感じでしょうか? 

T TOEICで何点取れるという事よりも、実務的な面として拙い形でもいいのである程度読めて書けて話せるという様になっていた方が、会社へ入った後助かると思います。

入社後に、英語が必要な場面というのは実際あったりしましたか? 

T 私たちの研究現場では、今は入ってすぐに英語が必要になるということはありませんが、そういう時代が来てもおかしくないところまで社会は来ていると思いますので、それに備えておくことは大事かなと思います。

英会話の他には、何かありますか? 

T プレゼン能力というか、人前で話す技術と資料をコンパクトにまとめる能力というのも、ある程度意識しておいた方がいいかなと思います。

プレゼン能力ですか。 

T 研究者って、自分の載せたい資料を載せ過ぎて情報量の多すぎるプレゼン資料を作ってしまう事が結構あると思うのですが、そういうものは企業では特に受け入れられないので、コンパクトにまとめて分かりやすく話す事がとても大事になります。

情報量は多すぎると逆に理解を妨げますよね。 

T 大学は、周りが全員専門家なので、ある程度大雑把に話しても分かってもらえるんですね。けれども企業の方は基本的に自分の分野については専門家ですが、他分野については詳しくない方がほとんどなんですね。なので、そうした方へ自分の専門分野をお話する際には、分かりやすくかみ砕いて伝えなければ理解は得られません。なので「どこが重要なのか?」ということを考えに考え抜いて、アウトプットの仕方を意識することが大事かなと思います。

難しい部分ですよね。つい伝えたいと思うほど詰め込んでしまいがちですからね。 

T 分かりやすく伝えるというのは、研究職として必要なスキルだと私は思いますし、自分一人で理解してもそれは研究ではなく、それを相手に伝えるところまでが研究なんだと思うんですよね。

なるほど。ありがとうございます。
最後の質問になりますが、入社5年を経過したところで今が一つの節目になるかと思いますが、Tさんの今後の目標などがありましたらお聞かせください。 


T 特殊品を扱っているというのもありまして、まずはそれを世に出してお客様に使っていただくというのが長期的な一つの目標としてあります。ただそうした製品を開発していく中で、良い製品が出来た時に「何が効いたか」という事が確実に分かっていないところというのはまだまだ沢山あって、そうしたところを一つ一つじっくり時間をかけて現象解明していきたいなとも思っています。

それはとても興味深い目標ですね。 

T ポリマーと、凝集剤なので凝集物を凝集させるのですが、凝集物側の分析というものも実は完璧にはできていない部分もあるんですね。そうしたブラックボックス的なところを一つ一つ現象を紐解いて、完全に「こういうものを使ったらこういう凝集体が得られる」というものを分析できる状態にして、お客様の凝集体を持ってきたら確実に「この製品を使えば凝集させることが出来る」という状況にしていきたいなと思っています。

それは正に顧客が求める到達点ですよね。 

T 今はほぼ8割方出来てはいるのですが、細かい部分はまだまだ分かっていない部分がいっぱいありまして、そうしたところを確実に潰していくようにしていきたいなと思います。そうすることで、凝集剤業界全体のレベルアップにも繋がるかなと考えています。
 
なるほど。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


T ありがとうございました。

【文責:(株)スプラウト 分須弘二】