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就活
コラム
熱量をもって取り組む化学品開発の魅力
日本軽金属株式会社[博士/研究職]
業種[高分子/医薬品/農薬/ファインケミカル/無機化学/電子材料/その他機能性化学品(有機・無機)]
「先輩インタビュー」第十三回では、国内随一のアルミ総合メーカーとして知られている日本軽金属株式会社を訪問してきました。自動車、電機・電子、機械、IT、エネルギー、建築、鉄道、食品など幅広い産業分野に多種多様なアルミ製品を提供しているだけでなく、化学品の開発にも力を入れている日本軽金属。今回はその研究開発部署で活躍されている入社4年目のKさんにお話を伺ってきました。



開発部での研究の在り方・・・
開発部での研究の在り方・・・
宜しくお願いいたします。早速で恐縮ですが、Kさんは現在どのような部署に所属されているのですか? 

K 現在は化成品事業部蒲原ケミカル工場というところの開発部に所属しています。ケミカルとは、弊社の中で化学品を扱う部署になります。この開発部では、生産課へいくまでの小スケールでのラボ検討などを行っています。

なるほど。では、Kさんの開発部で研究開発されたものが、後ほど規模が大きくなって生産へとつながっていくという事ですね。 

K そうなります。

そうしますと、今取り組まれている業務のイメージとしては、大学時代の研究より少し規模が大きくなったような形でしょうか? 

K そうですね。ベースはそれほど大きく変わってはいないと思います。

Kさんは、学生時代はどの様な研究をされていたのですか? 

K 学生時代は、新しい触媒反応開発の研究をしていまして、新しい変換反応を行ったうえで、極力廃棄物が出ないあるいは水のみを副生するような反応の開発に取り組んでいました。

現在の開発部での研究は、主にどの様な取り組みをされているのでしょうか? 

K 無機分野も有機分野もあります。無機分野ですと、次亜塩素酸ナトリウムなど漂白剤に入っている様な成分を作ったり、凝集剤といって汚れた水を浄化する薬剤を作ったりしています。有機分野ですと、塩素化合物がメインのものになります。

なるほど。そうしますと、取り扱われているものとしては触媒とは異なりますが、研究の在り方としてはだいぶ共通している面が多い印象でしょうか? 

K そうですね。元々有機合成の研究をしていたのですが、そういうところではベースがつながっているかと思いますね。




誰もが・安全に・同じように・・・
ちなみに、今取り組まれている業務について、やりがいを感じる部分を挙げるとすると、どのようなところがあるでしょうか? 

K 開発や検討作業が上手くいったかどうかという部分もあるとは思いますが、自分の武器であるケミストリーをある程度自由に出来ている環境自体が、何よりやりがいを感じている部分だと思います。

逆に、今取り組まれている仕事の難しさを感じる部分などは、どの様なところにありますか? 

K やはり、ラボでやっている事と生産課でやっている事は、初歩の部分では共通している部分が多いのですが、スケールが大きくなると注意する事が変わってきます。そして自分の手を離れると、自分が出来る作業が必ずしも他の人が出来るわけではないので、『誰もが・安全に・同じように』という三点が出来るような処方を適切に作っていくことが重要になるのですが、その部分が大変難しく感じるところですね。

生産課の方というのは、化学系の方なのですか? 

K 製造部署には色々な分野の方がいますね。特に化学工学を専攻されていた方が一番現場をよく分かっていると思います。

化学工学の方ですか。 

K スケールを上げる時、安易に「試しましょう」というわけにはいきません。化学工学を専攻された方ですとある程度計算して予測を立てることが出来るので、化学工学の力を借りてスケールアップをしていく形になります。

なるほど、そうしますと生産工程へ移る部分では、別の分野の方へ仕事を引き継いでいくという感じになるのですね。 

K はい。また安全に関しても分野が異なると見る部分も違ってきます。なので、一つの操作にしてもこれは本当に大丈夫か?という事を実機の生産の前に逐一ミーティングなどで互いに確認していきますので、ラボで出来たからすぐに生産へというように、一筋縄ではいかない難しさがあります。

安全の観点という部分で、具体的に感じられた違いなどはありますか? 

K そうですね、例えば大学で取り扱う規模程度の小さいスケールですと、反応で暴走が起きても収まるのを待てばよいケースも多いですが、大規模ですと悲惨な事故につながってしまいますので、まず暴走事態が起こらない様にというスタンスで取り扱います。そのため安全のために取る幅が大きく異なります。




思い描いていた現場と、今の現場・・・
思い描いていた現場と、今の現場・・・
ところで、就職活動をされていた時のお話もお伺いしたいと思うのですが、Kさんはどういったことを軸に活動をされていましたか? 

K 私の場合、元々化学系の企業に行きたいと思っていまして、その中で当初は製薬系の企業にも関心を持っていました。

薬に関心を持たれていた感じでしょうか? 

K 薬というよりも有機合成をやりたいと思っていました。結局企業探しをしていく中で最終的に化学系企業に絞っていきました。

なるほど。確かに製薬会社さんでも有機合成に関わる部分はあるとは思いますが、ちょっと向いている方向が違いますよね。 

K そうですね。研究の時にAとBを用いてCを作る中でDができたら、それはそれで面白いと思うのですが、製薬ですと目的がありきでどうやってCを作るかという事が大切になります。製薬の場合目的物の難易度が段違いに高く、だんだんと化学系企業にシフトするようになりました。

化学系企業での有機合成研究でも、受託合成などの様に現場によって在り方や視点にまた違いがあったりすると思いますが、その辺りはどのように見ていましたか? 

K 受託合成ですと、ある程度レシピは決まっていて上手くいくことが前提の業務になるので、そこを面白いと思えるかどうかだと思います。私の場合は試行錯誤していく中で「思ってもなかったことが生まれる」という部分に面白さを感じていたので、そうした観点を活かせる企業を探していきました。

そうした観点で企業探しをされてきた中で、就職活動をしていた当時思い描いていた日本軽金属での仕事のイメージと今の実像に違いや共通するところなどはありますか? 

K そうですね、振り返ってみると、今は自分が期待していた合成の研究は出来ているかと思います。イメージと違っていたところとしては、生産の現場では思ってもみなかったことが結構あるな、というところでしょうか。

思ってもみなかったこと、ですか? 

K はい。一つは、先ほど触れましたが、大規模での生産の段階になると自分は直接かかわれなくなるので、やはり学生時代には意識していなかった『誰もが・安全に・同じように』という3点を意識した研究が日々必要になるのだというところと、もう一つは、天気の影響がとても大きいというところです。

天気、ですか? 

K はい。他の工場ではどうかはわかりませんが、天候の影響が大きくて驚きました。夏場だと本当はもっと冷やしたいのになかなか冷えないとか、逆に冬場ですと配管が詰まったりすることもあって、これらの影響をいかに排除するかが工学的なポイントとなります。

なるほど、試験管レベルとは違って全体的なバランスを見ながら調整するのは大変ですね。 

K そうしたエラーが起きてもいい様に全体を見て設計をすることが、私たちの現場では大事なんだなという事を、入社後に学びましたね。




研究者として必要な熱量・・・
ところで少し視点を変えたお話になりますが、学生の中には自分のPRポイントに悩んでいる人がいるのですが、Kさんのお仕事を志望する学生の方が目の前にいるとしたら、どの様なアドバイスがあるでしょうか? 

K まず自分がどういう武器を持っていて、どんなことができるのか、どういう人間なのかという事を率直に伝えることが一番かと思います。過大にPRしたり逆に遠慮して自分を安売りしたりせず、ありのままに伝えるのが良いかと思います。それに採用担当者が自分自身のことをどう評価するかなど、自分自身ではコントロールできません。せっかくなら短い時間でも自分というものを理解してもらったうえで、評価・判断してもらえるところに入るべきだと思います。

例えばの話ですが、Kさんが面接官の立場になられたとした場合、どういうところを見たいと思いますか? 

K 研究職を志望する学生の方を見るならば、やはり「自分の研究を分かっているかどうか?」というところを見ると思います。

自分の研究への理解度ですか。 

K はい。研究はやり始めるとどんどん先が深く鋭くなっていくじゃないですか。その先端の部分を分かっているかどうか、というところが見たいですね。

逆説的に言うと、そうしたところを見えていない人というのも、大学の研究室ではいましたか? 

K 指示された事をただ言われたままにやっているという人もいたと思います。指示された事を忠実にやることも大切な部分ではあるとは思いますが、研究職を志望する以上、自分の研究に向ける熱量というものは大切だと思いますし、そのためには自分がやっている研究に対して受け身にならずに理解を深める意識は大切になると思います。

なるほど。 

K 最近は面接の場では謙遜して「会社にすべて任せます」という人が増えているそうなのですが、「入社してこういうことをやってみたい」「自分のこんな知識や経験を活かしたい」ということを言える人が魅力的に感じるよね、という話も聞きますので、自身の研究に対する熱量を是非PRしてほしいと思います。

熱量が大事なんですね。 

K 熱量が無いと、新しいことをやる時やうまくいかなかったときに厳しいと思います。新しいことをやろうとすると「もっと知りたい」とか「こういうことをしたら面白いのではないか」といった意識が必要になりますし、その意識を生み出したり、うまくいかないときのモチベーション維持には熱量が欠かせないと思いますね。

確かに熱量が無いと、何度もトライ&エラーの繰り返しは出来ないですよね。 

K はい。世の中に出てきた新しいものというのは、大概100人居たら99人からは批判を受けてきたものだと思うので、そこに熱量・意気込みや信念というものが無いと最後までやり通して世に出ることは無いかなと思います。

少し切り口が変わりますが、そうした熱量を持ったうえで、Kさんの職場としてはどういったタイプの学生の方がマッチすると感じますか? 

K 私のいる開発部という部門だけで見ると、自分の意見ははっきり言えるタイプがいいかなと思いますね。ある程度皆それぞれに譲れないところというものは持っているので、自分の専門領域については意見を出せる環境が出来ていると思います。あとは多少タフさも必要かなと思いますね。

タフさ、というとそれは体力的な面でですか? 

K 体力的にも精神的にも、でしょうか。

どういった部分でそれを感じますか? 

K 勤務地的に高校・大学の友人と簡単には会えませんので、入社したての頃は不安感を抱きやすいかなと思います。そうしたところで多少の精神的なタフさは必要かなという気がします。

なるほど。 

K 私自身も当初は、勤務地なんてどこでもいいと思っていたのですが、毎日を過ごしている中である程度家族や友人などと会える物理的な距離というものは大事なんだな、という事は感じます。

ちなみに通勤は車ですか? 

K 私の場合は電車通勤です。

他の方も電車通勤が多いのでしょうか? 

K いえ、工場から徒歩2分ほどの所に寮、5分ほどのところに社宅が有りまして、そこから通勤されている方も多いです。車が無くてもなんとかなります。

最近は、車の免許を取らない人も増えてきているので、そういう点でも働きやすい環境ですね。 

K そう思います。ただ実際には車があったほうが便利・快適なのは確実ですね。都市部以外で工場隣接の研究所勤務になると、現状車は避けて通れないのかもしれません。私自身も学生の時は車に乗るなんて考えられなかったですが、今ではちゃんと乗れています。せっかく勤務することになったのだから、その土地にあった生き方をするのも人生を楽しむ1つの方法かもしれないと、今は思っています。

それでは最後の質問になりますが、これから就職活動に臨まれる学生の人達へ、今どんなことをやっておくべきか、アドバイスが有りましたらお聞かせください。 

K まずは「自分がどうしたいか?」をしっかり考えることだと思います。研究職を志望するのであれば、今行っている研究をしっかりと頑張るべきだと思います。研究職は「何をするか」という点においてある程度個人の裁量が許されている職種だと思います。会社という制限がありながら、比較的自分のしたいことをデザインして、形にして、うまくいけば成果がだせるという素敵な環境だと思います。
一方でこれまでやってきことを1度リセットして、まったく違うことをしたいという場合もまた考えたほうがいいと思います。20代半ばで入社して、初めてのことを1から10まで教えられることに対して情熱を傾けたり、耐えたり、割り切ったりすることができるかは1度頭の中でシミュレーションしたほうがいいでしょう。
いずれにしても学ぶことは一生続きますから、いろんな面で学んだり、勉強したりする習慣をつけておくことは重要だと思います。


先ほどの話とも繋がりますが、言われたままに動いているのではなく、研究を自分のものにしていく取り組みが大事なんですね。 

K はい。自分の意志で考えて消化して研究を進めていくと、一歩先へ進めると思います。

なるほど。
本日は貴重なお話を聞かせて頂きまして、ありがとうございました。


K ありがとうございました。



【文責:(株)スプラウト 分須弘二】